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この世の果てることすべて

文月悠光


上靴からかかとが
ブレザーの袖から手首が
シャツの襟からくびすじが
第一ボタンから息の根が
逃げ失せる。
かしこいことには皆
私を置き去りにしていく。
不意に風が吹きすさび、
耳に打ち響いた。
青い車窓たちが
私を映し出してはさえずり、
目の前を飛び去っていく。
そこは駅のホームのようであった。
彼らの羽ばたきをとらえようと
私は線路へ近づいていった。
羽ばたきの向こう側の
吊革を握る右手たちへ
一心に目を見開くのだ。

(夕日に背中から抱きこまれる度、内から脈打つように
うごめいていた。生まれ落ちた瞬間の、その記憶を失く
してまでも、息をつむぎ出す。――知りたい、この身体
が私ではなかった頃のおはなし。杯を傾けた途端、地球
はゆるりと寝返りを打ち、せつな確かに、宇宙から見下
ろされている。この世の果てることすべて、私からすこ
やかに抜け落ちているの)

電車が吹き抜けていった後
ホームにひとり、
影は立ち尽くしている。
ときどき俯き加減に
のど元へ手をあてて
繋ぎとめるような
仕草をしてみせる。
どこかへ向かう電車ばかりが
まばゆくて
彼女は魅せられたように
帰れないのだ。



 初出:「詩と思想」2011年4月号



文月 悠光(ふづき ゆみ)

1991年 札幌市生まれ。
2007年 第3回詩学最優秀新人賞。
2008年 第46回現代詩手帖賞。
2010年 第一詩集『適切な世界の適切ならざる私』(2009年 思潮社)で第15回中原中也賞受賞。
URL:http://www.geocities.jp/hudukiyumi/


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3 コメント “この世の果てることすべて”

  1. 橘 弥宵生 より:

    「すこやかに抜け落ちている」という表現、すきです。

  2. 小泉 より:

    電車が通り過ぎる一瞬をなんとなく感じるのだけど、なんだかよくわからないのは、俺の頭が悪いせいなのか。
    詩を書く人たちは他の詩人の人が書く詩をわかるのかなぁ。

    でも、文月さんは好き。

  3. わたあめ より:

    「女子高生にとって可愛いは人間の価値そのものとイコールで直結する。性格が極悪でも容姿の良い子はとびきり高い点数をつけてもらい、クラスに君臨し、のさばり、その逆の子は高一の一学期の時点で、親と教師とでいつ転校するかで何度も話しあうほどクラスの隅に追いつめられる (綿矢りさ)」???

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