風に色がついている
ステンドグラスでも見たことのない色だ
色は交差し合って悲鳴をあげる
〈愛しているよ〉
〈さよなら〉
〈またどこかで〉
〈もう逢えない〉
〈あなたを赦さない〉
いろんな声が混じり合い
グランドキャニオンを流れる風になる
臨終の床を窓越しにたたく風になる
風の渡し場で
行く先の道を気遣って思案している人がいる
迷えばいい
とにかく出掛けたら?
雨期
泥混じりの道のぬかるみが
あの文字を奏でて
どこかで待っているはずだから
止まれ
そのように風は色を畳みかけ
道にしるべを作るのだ
止まれ
それまでは誰も止まることなどないのだから
季節がゆっくりと降りて来た
大気の重みを風が支え
今日の色になる
ネイビーブルーからパープルへ
パープルからバイオレットへと
風が色を重ねる
わたしが重いなら
わたしをさらう風になって下さい
そう呟きながら風の渡し場を通過した
祈りが凍り
涙が熱砂のように
渡し場の犬の背を
撫でていた
半世紀前にも
この犬はきっと渡し場で
わたしに似た人を目撃しただろう
その犬の名は
ピスとかバルであったかもしれない
風を避けることなど
できません
風の色を選ぶことなど
できません
わたしにできるのは
風に命をあげることしかありません
だから 今日の犬の背を撫でる
痛い と犬は言った
(「ガニメデ」49号より)
軌道
渡辺めぐみ
渡辺 めぐみ(わたなべ めぐみ)
東京生まれ。
第一詩集『ベイ・アン』(二〇〇一年、土曜美術社出版販売)収録の一篇で第十一回詩と思想新人賞受賞。
第二詩集『光の果て』(二〇〇六年、思潮社)で萩原朔太郎生誕一二〇年記念・前橋文学館賞受賞。
第三詩集『内在地』(2010年、思潮社)で第21回日本詩人クラブ新人賞受賞。
今年度より世田谷文学賞選考委員。















