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土の言葉

渡辺めぐみ


手と手を握りあうのは恐ろしかった 業火の中で
手が手を裏切るのではないかと
手が手を穢すのではないかと
ひとりが助かればひとりが壊れるのではないかと
わたしたち互いの記憶も家族も夢も桜も南十字星も
同時に消去されるのではないかと
それでも国籍の違うわたしたちは
助かりたいと思った
結果ではなく
共に生きたいと思った どこまでも
そのようにして心に互いをいだくことができたから
わたしたちは結ばれ 戦地に深く眠る 今も
砕けた骨に宿る心のままに
戦勝国も敗戦国もないのだった
加害者も被害者もないのだった
どちらが兵士であったかなかったか
どちらが民であったかなかったか
どうでもよいのだった
愛を
悲しみの愛を
戦地の灼熱の愛を
誰か見つけて下さい
祈りではなく
涙ではなく
その愛の痛みを 手に持ち帰って下さい
あなたがとても大切なたった一人のためでよいから
持ち帰って下さい
その手に
わたしたちの命の代わりに 持ち帰って下さい
さあ
わたしたちはそれを待っております
ただそれだけを待っております
日没を数えて待っております

(「詩人会議」8月号より)

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渡辺 めぐみ(わたなべ めぐみ)
東京生まれ。
第一詩集『ベイ・アン』(二〇〇一年、土曜美術社出版販売)収録の一篇で第十一回詩と思想新人賞受賞。
第二詩集『光の果て』(二〇〇六年、思潮社)で萩原朔太郎生誕一二〇年記念・前橋文学館賞受賞。

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