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審判

川島清


冷たいシーツで寝ているからだを, 充分に拘束する朝日は色濃く輝いていた.すべて裸になることなどできないこころで, パンにバターナイフをあてる. 鏡の中の自分に, 一生懸命ネクタイをしめていた数分前を思い出しながら.歯ブラシのうごきは, 汚物を落とすことよりも, 自分の細胞を〝綺麗〟に拭い去りたい一心の反復だった.ラミネートチューブの残滓のように, バターナイフの縁で光る太陽.それをじっとみつめていて, でも時間は革靴を履いてドアを開け独りで歩いているのに, からだの輪郭はまちがいなくここにあった.
  白い息を吐く風が, 自分のものだとわかる.
  時間と自分がぴったり一致している.
ふとみると, 美しく整ったハナミズキの街路樹のある道にいた.
いつものように仕事場へ赴く, どこか秘密な数列の人々の肩と肩との間で<誰も何も思い出せずにいるのか>, それとも, 遠くにある〝水脈〟の照り返しをうけ, 時々顔が冴えていることにあまんじているのか.あるいは, わずかに等間隔に並んだ街路樹で,
喩えれば<ハナミズキの亀裂も等間隔に起こる{花}だ>などという独りごとに思い出さないエネルギーを感じ, その力を充分に転換できる静謐があって.
そう, この朝日の輝きは, まぎれもなく〝水脈〟を忠実に発見したものなのだと気づく.
       雲のかけらが落ちる.
人々はそのなかを歩く.

       水の流れはここにある

誰も気づいてはいないかもしれないけれど
みな, どこかで耳を澄ましている.
あの高層ビルの狭間に
無数の行き交う人と人の間に
絶えることのない車の残響に

このからだのなかに

微かに聴こえる


           虹の
           誕生まれる音が





第三のリアリズム

リアリズムは2種類しかなかった.日常のなかでおきたことをそのまま描くものと, 心に浮かぶことがらに忠実なもの. これら二者は, 普段, 並立の関係で同時進行しているが, 時には直列になったり重層化したり, 気儘に独り, 旅立つったり……….
実際はこのような状態であるのに, 今までのリアリズムは, 前者を重視する傾向が強すぎて, しばしば後者はないがしろにされてきた.
だから, 従来のリアリズム作品はどこかよそよそしさを伴い, 言い知れぬ側面性が生まれる.
しかし, といって後者の作品のみでいいかというと, それは独善性が強く, 時には難解のままで終わってしまう.
内と外の連続性.外的世界はそれのみでは価値を持たず, 内的世界も同様である.しかし逆に外は内に拘束され続けてもおらず, また内も外の強制下にはない.よってリアリズムはこの二者の相関性の<あるがままの姿>を描くことで, 初めて技法として成立する.

第三のリアリズムは, 既に詩がおこなってきたものなのかもしれない.



川島 清(かわしま きよし)
2003年、詩編「受胎調節の横木」を思潮社より発刊。同年、詩人100人に選ばれる。
和合亮一氏と知己を得て、「ウルトラ」に参加。「ウルトラ」同人となる。
2004年まで群馬を拠点に予備校講師・短大講師を兼務。
2005年より四ッ谷学院・青文塾に絞り、主に東京にて勤務。
著作には他に、大学受験参考書「ルネッサンス現代文」、絵本「みつばち」がある。
明年、次詩編発刊の予定。

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