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夏の思い出

小川三郎


去年の夏は海水浴で
鮫に追われて楽しんだ。
降り注ぐ太陽
緩やかな波の音
水平線
笑い声
その間隙を鮫は泳いで
海水浴客を襲って回った。
あちらこちらで笑いが弾け
若い男女が逃げて回った。
私とあなたも笑い転げ
慌てて鮫から逃げてまわった。


白濁した夏が思い出される。
今年もあの太陽が
水平線の向こうあたり
もうやってきている。
あなたは手足を食い千切られ
助けようとした私も
手足も頭も食い千切られ
二人して海の底へ
バラバラと沈んだ。
冷たい海流にのって
小魚どもがやってきて
私たちの残りの肉を
くすぐったく突つきまわした。


夏の思い出が消える事はない。
老人になって行き倒れても
鮮烈な色のまま
髪の隙間に浮遊している。
この時期には街中で
人々の髪の隙間から
ふわりふわりと浮き上がり
電線の下あたりに溜まり
それを見上げて商売人は
夏のセールの計画を立てる。


また今年もあの海に
去年と同じ鮫がやってくる。
去年と同じ
あなたと私は海へ行く。
鮫は二人の顔を
ちゃんと覚えていて
去年と同じ食らい方を
してくれるに違いないのだから
心配はない。
いつまでも何も変らない。


        (初出 詩集『永遠へと続く午後の直中』)

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小川 三郎(おがわ さぶろう)
神奈川県生まれ。
2002年から2005年までの間、現代詩手帖投稿欄に詩を投稿。
以後、第一詩集『永遠へと続く午後の直中』、第二詩集『流砂による終身刑』を思潮社より刊行。
『ルピュール』同人、『酒乱』同人・編集委員。

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