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映写機の果て(草稿)

八柳李花



緑色をした爪あとが
シャンパンの瓶をなぞると
描き出される鮮明な停止線イマジナリー・ライン
区画されうる時間がうわっとあぶれる
というように、
ガラスの境界は造形からせり出し
時軸をいっそう繊細に刻むのだろう、と
静物の実体に突き当たれば
私を乗せた床は雨だれより遅く
老いてゆくのであろうから
部屋を囲みだすコンクリートに
時軸の流れをぴたりと擦らせてゆく
長々とうねる道のカーブに時間は滞り
家々の相対速度とのずれに軋むので
国境では昼顔がひがないちにち高気圧を飲む
という時間の無音性に
君と私が反転してゆくのだ、と仮定してみる
同心円状に広がる時空の差異が
写し出す余興になだれを起して、
境界線を抑圧する飛距離
瓶の栓を開けた瞬間に流れ出した時間が
部屋を満たし、家々を満たし
雨粒の合間を斜めに走りながら
国境の晴天をリピート再生させる
手を伸ばした先に触れるがらくたが身体を延長させ
ステッキをついて歩くステッキの先の感覚が
伸展した皮膚感覚として
私たちの眼と入れ替わる、
としたら、雨音にあわせて鳴らす黒鍵の
刻む短調の和音が
ひとつのエチュードとして括られうるように
私の横ではずむ夕暮れ
それぞれの物音は相殺しながら
時流をまたもとのように
瓶へ押し戻してゆく、とある日常としての
雨が降っている映像
等緯度上でぽっかりと口を開ける快晴の
なかで側転する時針
を、くるくると映写機に巻いて昼のテレビで
速報しているのであるなら、
私から剥離してゆく時間の停滞を
瓶の縁を取り囲む景色がより濃く打ち刻んで
指先がガラス粒子にまで解体する
・ ・つぶ つぶ
空隙に、私は点として打たれ
投げ出された空間に君の感覚を問われる

 /末梢を開くうつむいた格段から、映り、ひと
 /こえの、踏み出し。他にどんなことが、でき
 /た、の、些少からくずおれる、用心深く選び
 /抜いた夏至を、裸の脚で、いくらでもふみぬ
 /いた。しぃの間、脇が、井戸の、水音にも慣
 /れ、影喰うひとの声、梢まで青ざめ、暮れま
 /でに右が、背を下にして国旗の闇を押しくぐ
 /ぐぐ、ぐぅの音は、長い細末に痩せ、歌う、
 /白と青でできた人間の、大きさを示した体、
 /めぐる消明の左まつげは、濃い影で、城の、
 /石段に汚れた。

〈  〈  〈 〈切断カット〉 〉  〉  〉

爪にあたる硬さに君たちを噛んで
Sieあなた)を覗きこんで私に微笑んだ
花のような代名詞たちは砕け
奥歯を残して喪失する血の
容れものが重さをふちどる、
イオニアの眼球は永久の宝石に炭化して

 /井戸の、底ね・ずいぶん、苦楽して、きた慎
 /重にざわめくのは、待って、わ、たし、み、
 /の、いるからよ(線影)ルドンの、黒が、ふ
 /ちどりを失って、文鳥が硬くおちたそらの、
 /谷間で死んだ。泥濘を転がり落ちていく、あ
 /り(鬼百合)きた(きっと)りで《私》は、
 /遍在する(しみの)傍ら、ひぃ、ふぅ、(き
 /っと)ど(青が)こにでもあると、(投げ出
 /した)おもうわ、坂道を転がり

肋骨の支えを指でなぞらえた
時速60kmの陰影を推し量っている
空間を包む薄膜を剥いてずらすと
色彩の露を帯びた軌跡が
座標を伸び縮みさせながら
なめくじがいたかのよう
失速する私を
遠のいてしまっている




八柳 李花(やつやなぎ りか)

1986年、神奈川県生まれ。
早稲田大学芸術学校中退。
現在、同志社大学文学部在学。
2009年、第一詩集『Beady-fingers.』(ふらんす堂)刊。

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