鏡
鏡をのぞきこむことなど出来ない
季節の静寂が歯を剥き出して激怒しているからだ
見つ
めていくほどにミンク鯨の内臓が空になっていくからだ
私の腹の底に割れた森羅万象が
蠢いているからだ
見つめ続けているこの鏡にこの鏡は写されないままなのだ 鏡
鏡をのぞきこむことなど出来ない
素足の悲しみが分かっている死者の横顔が写されるだ
けなのだ
薔薇の目と耳と鼻と口の現在が写されるだけなのだ
姿が見えなくなる人間に
育てられた狼の影が写されるだけなのだ
鏡という魔の心を分かろうとしても計り知れな
いのだ
見つめ続けているこの鏡にこの鏡は写されないままなのだ 鏡
鏡の表側を磨きつづけていくうちに 裏側で瞬く
稲妻を探すことが難しくなった 曇り
のない鏡面には
それでも膨張する宇宙の摩擦だけが濡れ落ちていく
だから時々には華厳の滝が写るだろう
鏡をのぞきこむことなど出来ない
鏡の奥処
映じられている年月はそのまま月と雲とを
浮かべ
岬が灯台の明かりをこちらに投げて寄越している
その先には無人の国が広がっ
ている
野道が鏡の中で激しく曲がっていくのだが
猛り狂う狼が燃えあがる前足を
どうしよう
もなく駆らせているのだ
行き過ぎる絶望の獣の胴体
無言の鏡に傷は一つもない
鏡よ鏡 この内なる秘めた失念
鏡をのぞきこむことなど出来ない 鏡の奥に
ほのかに浮かぶ湾岸道路
真ん中に片足だけのビーチサンダル
転がっていて燃えている
鏡よ鏡 この内なる秘めた失念
鏡は遠くに目を細めているのだ 草丈の高い河原に
ドロ
ドロの白球が転がっているのも
帽子を裏返しに被り
反転された美神の郷愁に酔いどれながら
草笛を吹き それを転がしたままにするのも
全ては季節からの復讐
おまえ死んでしまえ
この鏡はこの鏡を写さない あの鏡はその鏡を
だ
から鏡を裏側から金槌で打ち砕くのだ
そ
うやって鏡の裏側を金槌で打ち砕くのだ
打ち砕
くと粉々になるのだ
うらむべきは鏡の意志なのだ
あなたの悪魔を完璧にするのだ
輝く夜明けと共に
気狂いなまでに精巧な人体模型を人間の中で燃やすのに失敗
誰だ 真っ
赤な鼻を持て余しているのは?
うらむべきは鏡の意志なのだ
わたしの絶望を美しく目の前
にとどめて
輝く夜明けと共に 笑い袋を裂くのだ
無言の内実を滅茶苦茶に噛むのだ
チューインガムをぶち壊したいのだ
鏡をのぞきこむことなど出来ない
見つめ続けている鏡に鏡は写されないままなのだ 鏡
鏡よ鏡 この内なる秘めた失念
だから鏡の裏側を憎む
打ち砕けば粉々になるのだ
鏡の裏側で広大な夢が押し黙っている
鏡の裏側で比類ない残虐が嘲笑っている
鏡の裏側で吹きすさぶ風が裏切っている
鏡の
裏側で散りつづけているハナミズキがある
鏡の裏側で湧きたち消える雲の解散がある
鏡の裏側に呟きをとめない雀の大きな翼がある
鏡の裏側に波浪を繰り返して消えていく
大海がある
鏡の裏側に麦の慚愧を発酵させたウィスキーの一滴がある
鏡の裏側に誰にも愛
されない小高い丘の一本杉がある
鏡の裏側に鏡がある
★
鯉
沼に泡 鯉の影が様々に色と気を狂わせながら
あなたの生涯に忽然と浮かぶ
華麗なる
霊気こそあなたの一生には必要
従兄弟が涙をとめどなく流しながら
季節の愁いを呟こ
うとするのはこの時だ
沼に泡 浮かびあがれ 極彩色にまみれた
残酷なる虚の皮の魚影
こんなにも汗をかい
ている私の肝臓
突然 眼前を金色の鯉が 旋回したから
この沼には 溺れた光だけが
ある
幽暗なる沼底で始まりつつある
色彩の戦火 消滅する歌留多の一枚
私の思想は陽の当たらない半分の畳のまるごとのことである
沼に泡 鯉の影が様々に色と気を狂わせながら
あなたの生涯に忽然と浮かぶ
沼底の汚泥に沈む五寸釘の全身は誰の命なの?
あらゆる憎しみは四十六色の錦鯉
あら
ゆる残念は八十二色の錦鯉
沼に泡 鯉の影が様々に色と気を狂わせながら
あなたの生
涯に忽然と浮かぶ
一匹の血みどろの鯉が跳ねる また死ぬ
午前四時 鯉の影におびえ震えて目覚める
僕の頭の奥は闇夜
静かにけだものに厳しい
肉を食べさせて
絶望に舌鼓を打たせる
雑木林が涙を流して倒れて枯れ始める
沼に泡 僕の幽暗の闇を抱え込んだ頭の内部に
腐葉が重なり水苔の繁茂する岩と岩とに
生
まれなかった海老や汚らしい泥やそこに
巣くう得体のしれない最悪の微生物や
内蔵を
食い破られた鯉の死骸が留まり
午前四時 沼に泡
あなたの過去を黄金色に染めあげて
あなたを莫大な宇宙の孤独へと
紹介している
深紅の鯉
昨日と今日とを飲み込んで
長い洞窟となるのか
鯉の肉体は暗がりを精神の内奥まで溜め
こんで
そのまま非常事態に
一匹ずつなっていくのか
鯉の内部に一吹きの波浪が起こり 騒々しく
水面を過ぎていく 百六十八色の敵意
ほ
ら 一昨日が解体されていく
鯉を想い続けていると夜更け
鯉の影が悠然と浮きあがり
私の脾臓に油絵の具を塗りたぐり
笑う魚の幽霊
沼に泡 僕の幽暗の闇を抱え込んだ頭の内部に
腐葉が重なり水苔の繁茂する岩と岩とに
生まれなかった海老や汚らしい泥やそこに
巣くう得体のしれない最悪の微生物や
内蔵
を食い破られた鯉の死骸が留まる
鯉が宇宙を内蔵して
夜ごとに私の夢の中で跳ねるから
こんなにも悲しいのである
鯉がいくつもの鯉の影を連れて
こんなにも連なって泳いでいるから
こんなにも 涙ぐましいのである
★
時
時計の裏側には静かに壊れながら 波浪する海があって
時を見つめていると 心が騒が
しくなって
もうどう仕様もない とても 刻まれていく何かがある
時計は血眼になって
私とその死とを追い回している
指し示す時刻とは移ろい続ける法則の 影のさらなる影
そのものだ
時は刻みながら花嵐になって 時々にはあなたの心を滅茶苦茶にし
やはり
刻まれていく何かがある とても 刻まれていく何かがある
時計が燃えさかれば 花が
発狂していっせいに風に靡く
花畑の真ん中で 雄蘂と雌蘂との争う声に耳を澄ます
たとえ 時計を分解したとしても
時を分解することは出来ない
だから郵便ポストはこの地上から逃亡する
時間を気に病みながら
一秒が過ぎていく 死を覚悟する時計の奥処で
呼吸する断末魔が 沼の陰の岩が集まっ
たところで
海老の卵をその舌先で転がしてみせている
とても 刻まれていく何かがある
そして 螺子の外れたままで 地上に
余すところなく全てを約束させるのも難しい
時が話しかけてくるのだろう 影が一勢に
あなたの魂の鼻先を掠めていく 瞬間に
時に話しかけてみよう 風が四方八方に
あらゆる感情を発狂させながら 一秒を刻む
雑木がなびく 処刑の夢が処刑される
見ず知らずの時計仕掛けの八朔を切り刻み
香気
をあなたの死後の散々なる鬱蒼の野に放つのが
良いだろう とても
刻まれていく何かがある
雲の行方を良く見つめてからのほうが良い
先の分からないままに広がる思惟は
夢の中に
美しい画鋲を降らせている
時は秒刻みになってあなたの街の鳩をねらう
時は一時間ごとに真白い横断歩道を真紫色
に染めあげて
あなたの死後に手を挙げさせる
時は壊れてとりまとめられて捨てられていく
何百もの無数のハンガーである
時は燃えあがるような珈琲である
時は無残に転がされている空襲の後の
肘掛け椅子である
時は吊り下げられている鮟鱇の深い夢の
底で光る一本の五寸釘である
時は離陸禁止の滑走路を鳴きながら
泣きながら走りつづける翼のない雄犬たちである
時は 生長し続ける丈高い葦である
怒りに満ちている真黒い山陰のどこかである
時は 真黒い夜の雑木林である
大げさに華麗なる時間が過ぎている
不明の肉食獣が食欲を満たしている
空気に隠れながら産まれ落ちる命とは 時
あらゆる限りの野生生物が息をこらして
朝の訪れを恐怖している
死ぬ 時
とても刻まれていく何かがある
やはり刻まれていく何かがある
鏡をのぞきこむことなど出来ない
季節の静寂が歯を剥き出して激怒しているからだ
見つ
めていくほどにミンク鯨の内臓が空になっていくからだ
私の腹の底に割れた森羅万象が
蠢いているからだ
見つめ続けているこの鏡にこの鏡は写されないままなのだ 鏡
鏡をのぞきこむことなど出来ない
素足の悲しみが分かっている死者の横顔が写されるだ
けなのだ
薔薇の目と耳と鼻と口の現在が写されるだけなのだ
姿が見えなくなる人間に
育てられた狼の影が写されるだけなのだ
鏡という魔の心を分かろうとしても計り知れな
いのだ
見つめ続けているこの鏡にこの鏡は写されないままなのだ 鏡
鏡の表側を磨きつづけていくうちに 裏側で瞬く
稲妻を探すことが難しくなった 曇り
のない鏡面には
それでも膨張する宇宙の摩擦だけが濡れ落ちていく
だから時々には華厳の滝が写るだろう
鏡をのぞきこむことなど出来ない
鏡の奥処
映じられている年月はそのまま月と雲とを
浮かべ
岬が灯台の明かりをこちらに投げて寄越している
その先には無人の国が広がっ
ている
野道が鏡の中で激しく曲がっていくのだが
猛り狂う狼が燃えあがる前足を
どうしよう
もなく駆らせているのだ
行き過ぎる絶望の獣の胴体
無言の鏡に傷は一つもない
鏡よ鏡 この内なる秘めた失念
鏡をのぞきこむことなど出来ない 鏡の奥に
ほのかに浮かぶ湾岸道路
真ん中に片足だけのビーチサンダル
転がっていて燃えている
鏡よ鏡 この内なる秘めた失念
鏡は遠くに目を細めているのだ 草丈の高い河原に
ドロ
ドロの白球が転がっているのも
帽子を裏返しに被り
反転された美神の郷愁に酔いどれながら
草笛を吹き それを転がしたままにするのも
全ては季節からの復讐
おまえ死んでしまえ
この鏡はこの鏡を写さない あの鏡はその鏡を
だ
から鏡を裏側から金槌で打ち砕くのだ
そ
うやって鏡の裏側を金槌で打ち砕くのだ
打ち砕
くと粉々になるのだ
うらむべきは鏡の意志なのだ
あなたの悪魔を完璧にするのだ
輝く夜明けと共に
気狂いなまでに精巧な人体模型を人間の中で燃やすのに失敗
誰だ 真っ
赤な鼻を持て余しているのは?
うらむべきは鏡の意志なのだ
わたしの絶望を美しく目の前
にとどめて
輝く夜明けと共に 笑い袋を裂くのだ
無言の内実を滅茶苦茶に噛むのだ
チューインガムをぶち壊したいのだ
鏡をのぞきこむことなど出来ない
見つめ続けている鏡に鏡は写されないままなのだ 鏡
鏡よ鏡 この内なる秘めた失念
だから鏡の裏側を憎む
打ち砕けば粉々になるのだ
鏡の裏側で広大な夢が押し黙っている
鏡の裏側で比類ない残虐が嘲笑っている
鏡の裏側で吹きすさぶ風が裏切っている
鏡の
裏側で散りつづけているハナミズキがある
鏡の裏側で湧きたち消える雲の解散がある
鏡の裏側に呟きをとめない雀の大きな翼がある
鏡の裏側に波浪を繰り返して消えていく
大海がある
鏡の裏側に麦の慚愧を発酵させたウィスキーの一滴がある
鏡の裏側に誰にも愛
されない小高い丘の一本杉がある
鏡の裏側に鏡がある
★
鯉
沼に泡 鯉の影が様々に色と気を狂わせながら
あなたの生涯に忽然と浮かぶ
華麗なる
霊気こそあなたの一生には必要
従兄弟が涙をとめどなく流しながら
季節の愁いを呟こ
うとするのはこの時だ
沼に泡 浮かびあがれ 極彩色にまみれた
残酷なる虚の皮の魚影
こんなにも汗をかい
ている私の肝臓
突然 眼前を金色の鯉が 旋回したから
この沼には 溺れた光だけが
ある
幽暗なる沼底で始まりつつある
色彩の戦火 消滅する歌留多の一枚
私の思想は陽の当たらない半分の畳のまるごとのことである
沼に泡 鯉の影が様々に色と気を狂わせながら
あなたの生涯に忽然と浮かぶ
沼底の汚泥に沈む五寸釘の全身は誰の命なの?
あらゆる憎しみは四十六色の錦鯉
あら
ゆる残念は八十二色の錦鯉
沼に泡 鯉の影が様々に色と気を狂わせながら
あなたの生
涯に忽然と浮かぶ
一匹の血みどろの鯉が跳ねる また死ぬ
午前四時 鯉の影におびえ震えて目覚める
僕の頭の奥は闇夜
静かにけだものに厳しい
肉を食べさせて
絶望に舌鼓を打たせる
雑木林が涙を流して倒れて枯れ始める
沼に泡 僕の幽暗の闇を抱え込んだ頭の内部に
腐葉が重なり水苔の繁茂する岩と岩とに
生
まれなかった海老や汚らしい泥やそこに
巣くう得体のしれない最悪の微生物や
内蔵を
食い破られた鯉の死骸が留まり
午前四時 沼に泡
あなたの過去を黄金色に染めあげて
あなたを莫大な宇宙の孤独へと
紹介している
深紅の鯉
昨日と今日とを飲み込んで
長い洞窟となるのか
鯉の肉体は暗がりを精神の内奥まで溜め
こんで
そのまま非常事態に
一匹ずつなっていくのか
鯉の内部に一吹きの波浪が起こり 騒々しく
水面を過ぎていく 百六十八色の敵意
ほ
ら 一昨日が解体されていく
鯉を想い続けていると夜更け
鯉の影が悠然と浮きあがり
私の脾臓に油絵の具を塗りたぐり
笑う魚の幽霊
沼に泡 僕の幽暗の闇を抱え込んだ頭の内部に
腐葉が重なり水苔の繁茂する岩と岩とに
生まれなかった海老や汚らしい泥やそこに
巣くう得体のしれない最悪の微生物や
内蔵
を食い破られた鯉の死骸が留まる
鯉が宇宙を内蔵して
夜ごとに私の夢の中で跳ねるから
こんなにも悲しいのである
鯉がいくつもの鯉の影を連れて
こんなにも連なって泳いでいるから
こんなにも 涙ぐましいのである
★
時
時計の裏側には静かに壊れながら 波浪する海があって
時を見つめていると 心が騒が
しくなって
もうどう仕様もない とても 刻まれていく何かがある
時計は血眼になって
私とその死とを追い回している
指し示す時刻とは移ろい続ける法則の 影のさらなる影
そのものだ
時は刻みながら花嵐になって 時々にはあなたの心を滅茶苦茶にし
やはり
刻まれていく何かがある とても 刻まれていく何かがある
時計が燃えさかれば 花が
発狂していっせいに風に靡く
花畑の真ん中で 雄蘂と雌蘂との争う声に耳を澄ます
たとえ 時計を分解したとしても
時を分解することは出来ない
だから郵便ポストはこの地上から逃亡する
時間を気に病みながら
一秒が過ぎていく 死を覚悟する時計の奥処で
呼吸する断末魔が 沼の陰の岩が集まっ
たところで
海老の卵をその舌先で転がしてみせている
とても 刻まれていく何かがある
そして 螺子の外れたままで 地上に
余すところなく全てを約束させるのも難しい
時が話しかけてくるのだろう 影が一勢に
あなたの魂の鼻先を掠めていく 瞬間に
時に話しかけてみよう 風が四方八方に
あらゆる感情を発狂させながら 一秒を刻む
雑木がなびく 処刑の夢が処刑される
見ず知らずの時計仕掛けの八朔を切り刻み
香気
をあなたの死後の散々なる鬱蒼の野に放つのが
良いだろう とても
刻まれていく何かがある
雲の行方を良く見つめてからのほうが良い
先の分からないままに広がる思惟は
夢の中に
美しい画鋲を降らせている
時は秒刻みになってあなたの街の鳩をねらう
時は一時間ごとに真白い横断歩道を真紫色
に染めあげて
あなたの死後に手を挙げさせる
時は壊れてとりまとめられて捨てられていく
何百もの無数のハンガーである
時は燃えあがるような珈琲である
時は無残に転がされている空襲の後の
肘掛け椅子である
時は吊り下げられている鮟鱇の深い夢の
底で光る一本の五寸釘である
時は離陸禁止の滑走路を鳴きながら
泣きながら走りつづける翼のない雄犬たちである
時は 生長し続ける丈高い葦である
怒りに満ちている真黒い山陰のどこかである
時は 真黒い夜の雑木林である
大げさに華麗なる時間が過ぎている
不明の肉食獣が食欲を満たしている
空気に隠れながら産まれ落ちる命とは 時
あらゆる限りの野生生物が息をこらして
朝の訪れを恐怖している
死ぬ 時
とても刻まれていく何かがある
やはり刻まれていく何かがある
















「AFTER」私の魔よけ詩集です。
「鏡」「鯉」「時」と三つの素材をよく料理できているな~と
関心と尊敬と「詩人はカッコイイ」
という感情の錯綜を体験しました。
和合様の活動と音楽家ディヴィッド・シルビアンの活動が
ダブります。