息を繋ぐ。
膝の谷間に顔をうずめ、
〝わたし〟の吐いた息を
口の中で溶かしだす。
私たち、密生する。
閉じたまぶたの裏側から
私を見透かす〝わたし〟の目。
その漆黒の溜まりに手を浸せば
まなざしの星屑が吹きぬけていく。
同じ目線で色づいていこう、夜明けまで。
交接する生、
手を握り合うには近づきすぎた。
だから、私は〝わたし〟と息を繋ぐ。
溶けない、剥がれない、少女の内に降りしきる雪。赤い小指を立たせてみ
ても、凍てた思考は降り止まぬ。他人(ひと)はとめどなく徘徊し、満ち引きを繰
り返す海だから、結晶化した思考がその波頭へ注がれていく。
(他人って波をつくるんだ)
他人に溺れ、少女は初めて髄を掠める。すべての他人は〝あなた〟であ
り、肩に触れ、耳元で声をひそめ、ときには接吻も施さねばならない
〝誰か〟なので、彼女は息をつめて波の触手にもまれていた。
――〝誰か〟に飲まれてしまう前に、〝わたし〟を見出しなさい――。
満潮の気配と、降り注ぐ思考に叩かれながら、彼女は海をさ迷った。
飛沫の上がった先に、古びた〝わたし〟を汲み取っても、それが自身と交
わることはけして無いから
(あなたは、私です)
彼女はその度に、自分と過去を引き合わせねばならなかった。
(どうか拒まないで)
水を掬んだ手を掲げ、まだ見ぬ他人のような〝わたし〟へひしと念ずる。
(「さあ、わたしが本物です。ああ、あれは違いますよ。
あの〝私〟は、もう手垢まみれで汚いのです」
その言葉を合図に、ひょいと抱き寄せられる私。
「見てください。
これが本当の私だなんて、ありえませんものね」
〝わたし〟はそう甲高い声で笑い、
私を放り出すのだろう、さざ波の向こうへ……)
〝わたし〟を裏切るような自分ではありませんように、と彼女はいっそう
激しく思考を吹雪かせる。
地を這う確かな息づかいを追いかけていくと
いつのまにか
〝わたし〟の呼吸の中に身を置いていた。
息を吹き込まれては、
管楽器のようにうちふるえる喉。
(〝わたし〟が私へ目覚める重奏は
とても密やかな潮騒だから
漏らさぬように
うらがわの夜を見すえていなくては)
満潮はまだ恐ろしいけれど
明らむ切れ間がうるんできたら、
共にまぶたの幕を上げたい。
私たち、密生する。
私たち、密生する。
文月悠光
文月 悠光(ふづき ゆみ)
1991年 札幌市生まれ。
2007年 第3回詩学最優秀新人賞。
2008年 第46回現代詩手帖賞。
2010年 第一詩集『適切な世界の適切ならざる私』(2009年 思潮社)で第15回中原中也賞受賞。
URL:http://www.geocities.jp/hudukiyumi/









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