最近ばかみたいに眠れません
ばかみたいなんじゃなくて
ばかだから眠れません
みんながばかにしています
みんながあいつはきっとばかだと思っています
みんながあいつはきっとばかだと思っていると思っています
だから眠れません
休息したらいいよ
ってやさしい友だちが連絡をくれました
わたしの携帯電話は最近何故だかどこでも圏外で
部屋のなかでも圏外なので
なんでだろう、けどとにかく圏外で
圏外ってことは要するに電波が入らないわけですから
どんなメッセージの送受信もできないわけで
なんか絶望的に孤独で
ああわたしってば誰とも繋がっていないのか
と思って孤独で
自分だけいじわるされているみたいで
世界まるごと圏外になりました
あの人は食事に行こうと何度も言ったのに
いまだに連絡をくれません
おまけにわたしの世界はまるごと圏外になっているので
なんだか理由もなく泣けてきて
昔好きだった人がとんでもなく出世していたので孤独で
別に孤独でもないのに孤独なふりをしているから孤独で
わたしは子どものころから一人で蟻を殺して楽しんでいるような
かわいい子供でしたから
一人でいられることはとんでもなく落ち着くのでしたが
今では一人でいても色々な人が頭の中を支配して会議ひらいて懐疑して
またしても監視システムが働くので逃げ出せなくなって苦しいから孤独で
唯一の頼みの睡眠導入剤も、実のところ、アレルギーで薬疹おこして
飲めなくてばかみたいで孤独で
体中に意味不明の子どもみたいな蕁麻疹あるいは湿疹みたいなものが破裂して
ああ、生まれてきてつらい、存在するってつらい、生きているってつらい
っとまたしも陰気の悪魔が振り降りて
そんな文章をメールにして送ったら
みんな心配してくれているのかばかにしているのか
あんたってホント面白いって
圏外なのは携帯の部品が壊れているだけだからって
なぜか陰気なメールのはずが「(笑)」がいっぱいついていて
きゃははって笑っている
一人で眠れぬ夜はあまりにも孤独で
自分だけ世界においていかれる気がするくらい陰惨で
ひまだから独我論メリーゴーランドは回転します
結局のところ残されたのは身体という悪魔で
わたしは開けてゆく夜のすきまに自分のうでをかざして
誰かのうでの筋を思い出して
わたしは誰かが撫でてくれないわたしのうでを
わたしの右手でなでてあげて
誰かがきれいだといったわたしの第一関節を左手でなでてあげて
まるでひとりで影絵をして遊んでいる子どもみたいになって
誰かだったらこんなふうに撫でるだろうなあ
いやどうだろう
と思いながら孤独で
なんでこんなに孤独なのか意味不明で孤独で
ちょっと病的な妄想ばかりしていて
朝が来るまであまりに孤独で
なんでジャイアンはジャイアンって名前なんだろうって思い始めて
スネ男ってすっごい恥ずかしい名前だけれど大丈夫かなって思ったら
スネ男ってまぬけだなって分かってなんか安心して
そしたらあちら、あっちのお隣さんは誰だっけって思って
コロ介
コロ介は最後にコロ介なりっていう、
我輩はコロ介なり、
なりって断定のなりだよねえ、我輩は猫なり、我輩はコロ介なり、
そしたらすっごい自信だな、なんか鉄壁な実存だなっ、
私は私であるなり、
って断定して、力強くて、
存在論の問いとかそもそも存在しないくらいやつは確実にコロ介であるわけで、
うらやましいなあ、って思い、それであれ、あの子はだれだっけ、あの八百屋の男の子は、って思って、なんてこったい、
あの子は「ぶたごりら」じゃんか、「豚」「ゴリラ」じゃんか、いじめじゃんか、
なんであんた、そんな名前を平然と受け入れているのさ、ちょっと抗議しなよ、
あんた、「ぶた」で「ごりら」だよ、「ぶた」且つ「ごりら」だよ、大丈夫なの、
それって陰湿ないじめだよ、
わたしはぶたなり、ごりらなり、ゆえにぶたごりらなり。
ひどいひどい、ひどすぎるって思って、
ぶたごりらの顔を思い出して、
そしたら、ぶはッて噴き出してしまって、ごめんね、ぶたごりら、って思って
一人今日もぶたごりらの悲しみについて考えていたら孤独で
結局やっぱり
眠れません
眠れない夜
小野絵里華
小野 絵里華(おの えりか)
1984年東京都生まれ
2010年ユリイカの新人(伊藤比呂美・選)
主要論文
「〈日本身体〉の変容―萩原朔太郎を中心に」(「詩人会議」2007年7月号)
「安岡章太郎の短編小説「ガラスの靴」考―透明な物語に埋め込まれた権威・屈辱・〈公〉のモチーフについて」(「言語情報科学」紀要、2010年)
共著
『1Q84スタディーズBOOK2』(小森陽一編・若草書房・2010年)
―「〈王権〉はくりかえされる―『1Q84』における〈性〉と〈血〉をめぐって」
小野絵里華ブログ「詩人は死んだ魚の目をもって」http://erikaono.exblog.jp/









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