偽物の着物を着た
偽物の女が
偽物の下町を
滑らかに歩いていく。
なんと芸術的な眺め。
考えてみれば芸術なんて
なんでもかんでも偽物にしてしまえという
目論みに過ぎなかったんだな。
偽物に目のない私は
すっかり参って
人生を棒に振った。
背中を丸めて目をギラつかせ
偽物の女の後をつける。
偽物の下町は
私の靴を鳴らさない。
「悔しかったらそこの格子戸
開けられるものなら開けてみろ」
脇から私を挑発するが
あの女にしか興味がない。
女は時々振りかえり
私の顔をまっすぐ見据える。
批難めいたその目つきに
ますます私は惹き付けられて
再度与えられた人生までも
勢いよく棒に振った。
辺りは偽で埋め尽され
私だけが
偽になれない。
閉じられた格子戸の奥には
誰かの人生が
丸ごと収まっている。
格子戸は女の行く道に沿って
無数に並んでいる。
私もいつかはその向こうで
丸くなれるに違いない。
しかしここらは満室で
取り敢えず偽物の女を追って
偽物の下町をごろごろと
転がり落ちて行く日常。
(初出 詩集『永遠へと続く午後の直中』)
芸術的
小川三郎
小川 三郎(おがわ さぶろう)
2002年から2005年までの間、現代詩手帖投稿欄に詩を投稿。
以後、第一詩集『永遠へと続く午後の直中』(2005年)、
第二詩集『流砂による終身刑』(2008年)
第三詩集『コールドスリープ』(2010年)を思潮社より刊行。
詩誌『ルピュール』同人















