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約束のない旅

竹浪明


冬の約束は果たされた。
(次の冬は分からない。)
深い眠りに就いた森と
不眠に荒れる海を越え
磨き上げられた湖に
純白の群れが降り立った。
細長い首が美しいシルエットを掛ける
鉤のように撓んで
冷たい鏡の広間は
賓客の逗留に華やいだ。

冷気を裂く鋭い鳴き声が谺する。
湖は白く熱い息に沸き立ち
鏡の奥で漁が営まれる。
帰る約束のない一人の旅人が
旅程を秘めた白い翼と化したいばかりに
水際でむしろ餌食の魚に憧れる。
鏡に白を重ねる影と影の間に
眠れる森や眠らぬ海が浮かぶ。
鏡の内と外に開いた翼が
森も海も人も魚も抱いて白く閉じる。

約束の期限は次の季節を招く。
森は目覚め海はまどろむ。
激しい羽ばたきと足音に
鏡は割れて波立つと
白い大波が飛び立った。
静けさを取り戻した湖面に
腕白な天使たちの落し物のように
白い羽が散らばっている。
岸辺のぬかるんだ靴跡にも
汚れた羽が一枚埋もれかけていた。



竹浪 明 (たけなみ あきら)
http://takenamiakira.jp
映像作家・文筆家・東京造形大学映画専攻非常勤講師。
「蘭賞」(俳句)、「平間至写真賞優秀賞」「文芸社ビジュアルアート社長賞」他受賞。
俳句×写真集『恐竜×ヴィーナス=17文字』(文芸社)、 写真集『象と大樹と子供たち』(角川学芸出版・収録写真によるTシャツが「赤十字グッズ」に)他。
監督映画『のら暦*ねこ休みネコ遊ビ*』(UPLINK)他。

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