六本木詩人会 六本木詩人会 ホテルアイビス六本木

裏庭

塚越祐佳


マンハッタンのおおきな家
いまではわたしの

それはいま骨の中に入っています
ざわざわして小部屋がいっぱい
たくさんの戦後
わたしはケエキにくっつくこおりのように
かいだんの数だけさゆうにゆられていく

病数
かぞえる老婆ねむりにつくまで

もらった小ゆびはふとんのなかであたためていて
(かわいた材木にもとどおり)
いつのまにか屋根のように丸くもりあがった
ふとんをわたしはめくることができなくて
木々が骨の中をすべすべにしていく
電話は老婆の横で鳴り続けていて(とってあげない)

空き地を見てよろこぶ人々の
耳と目と歯
窓のようにもうすぐ
黄いろく
とじる
だからミス・ボーン
リバティ通りぞいの
あなたの立派な裏庭なら
小ゆびを育てられます
やがて木になってつちに出会う
鳩がみえないわたしのかわりに
あの九月にエレベーター前で勤務していた
前歯のない警備員のかわりに
空のことは昨日わすれましたから

もうすでにビョーキはなおっているのに
数えつづける老婆
さかさまにして
味もにおいも音もする

なつかしい場所
だけどわたしはそこに行ったことがない






初出:『大空襲三一〇人詩集』



塚越 祐佳(つかごし ゆか)

1977年群馬県生まれ。獨協大学を卒業後、ニューヨーク州立大学英米文学部クリエイティブ・ライティング科で詩や小説の創作を学ぶ。同学部主催の文学賞を受賞。
詩集『雲がスクランブルエッグに見えた日(2008年・思潮社、第59回H氏賞候補)、『大空襲三一〇人詩集』(2009年・コールサック社)。
季刊バイリンガル詩誌『エキマエ』を2009年10月より発行開始。
朗読パフォーマンスや、他のアートとのコラボ展示、詩・俳句などの翻訳も行う。
URL:http://otomikiki.blogspot.com/


1つ星2つ星3つ星4つ星5つ星 (11 票5.00)
Loading ... Loading ...

ぜひコメントを残してください


  • 他のおすすめ


  •  
    六本木詩人会