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シベリアン・スカイ

杉本徹


ひとけのない校舎の、……薄明の壁にそって
それは調律を
夏のたらいに響かせるユメの映画の
ワンカット――きみは弔うために猫と草花の、輪郭ばかり
夕焼けに指でえがいた
ためらいと自由、水槽とうしろむきの蒸発者
でもどんな歌のむこうにだって高架線は見えるのだから
数年後に渋谷まで弓なりに歩いた日を、消して
風と色と嘘を、たいせつにしてほしい
閉店後のスーパーの前に
急停止した、タクシーのドアの奥に
くずれてゆく砂漠を、ぼんやりと見た
その方位のあかるい永遠に向けて
いつかの縁日の、浮標(ブイ)のような紙縒を投げた
ユメの映画では
打ち寄せるうすっぺらな空気と埋立地、遠ざかるにまかせて
だから堤防はひとすじの、追えないカラスアゲハの
不器用な軌跡にかさなったのだ――
抜けるほど暗く青い空まで
シベリアン・スカイというかなたのビルの、明滅まで
きみはたどりつけない
シリウスと家並みのはてまで、そこまではきみは生きない
ただ見下ろすように砂、サンダルと、響かない冬の声の結晶を
さがしていた
声の冬、突っ立つ高層マンションに純白に乱反射すると
粒だつハレーションが、掲げた空き壜にとどいた
この日、こんな夕刻
流れつく先があるのなら、……影を飛ばそう、と
それは、そんな約束の小石となって
足もとの北半球の、ひろがってゆく波間のユメを一瞬の角度で
切り裂いて






初出・「歴程」2009年10号



杉本 徹(すぎもととおる)
1962年、名古屋市生まれ。慶応義塾大学文学部仏文科卒。
2003年、第1詩集『十字公園』(ふらんす堂)。
2009年、第2詩集『ステーション・エデン』(思潮社)で歴程新鋭賞。

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