ルノワールは黒(ノワール)の画家である、としたとき
はじめてあなたの瞳にうつる色は何色。
(六本木アートポエトリーシリーズNo.103)Ⅰ.モノクローム・シンドローム
ごく稀なことではあるのだがあまりにも白黒映画を観すぎたせいで現実の風景が白黒に見えてしまう目の病があり、まさにわたしがそうなのであるが、はた目にはそのような病に冒されていることは見えず、またわたしから見た視界はわたしにしか見えないため、わたしの病を証明するすべは絶たれほとんど誰にも信用してもらえないのだが、それでもやはりいまもわたしが見ている世界はモノクロであり、色彩はもう永遠に失われてしまったかのようであり、しかし色彩の記憶は未だ幽かにのこっており、今ならたとえば赤い紙をみるよりも紙に書かれた赤という文字のほうがわたしにとってはより赤なのであり、たとえば映像のなかであるいは現実に目の前で流れる血よりも小説や詩のなかで流れる血のほうがわたしにはより鮮明に赤を感じられるのであった。
Ⅱ.「わたしは色彩と言葉の画家です。いまから、
パレットにアトランダムに絵の具を出して、そこから一枚のタブローが描きあがるまでを、みなさまにお見せしたいとおもいます。『公開制作』ってやつですね。そのまえに、わたしにはちょっとよくわからないんですけど、そもそも、『赤』という文字はほんとうに赤色なのでしょうか?」
【STEP1】「では、まずパレットに、てきとうに絵の具を出しますね。」
あかあお
きいろ
むらさき
あまいろ
はなだいろ
にびいろ
【STEP2】「はい。では、色をまぜていきます。」
きみどりのあかきいろいあお
あおいきいろ
だいだいのむらさき
みずいろのあまいろ
あかいはなだいろ
ももいろのにびいろ
【STEP3】「それではこの色をつかって、カンヴァスに、おもいつくままにフォルムを描きこんでいきますね。」
きみどりいろのあかい血きいろいあおいちきゅう
あおいきいろいハンカチ
だいだいのむらさき大根
みずいろのあまいろの髪
あかいはなだいろのそら
ももいろのにびいろの雨
【STEP4】「そしたら、細部まで描きこんでいきますね。最後に私のサインを入れます。」
きみどりいろのあかい血の流れない午後
きいろいあおいちきゅうにすむあなたの
あおいきいろいハンカチははためかない
だいだいのむらさき大根のうえでねむる
みずいろのあまいろの髪の中で目覚める
あかいはなだいろのそら見下ろしている
ももいろのにびいろの雨になる。K・N
【STEP5】「乾いたらば、額装しますね。はい、これで完成です!」
額額額額額額額額額額額額額額額額額額額額
額きみどりいろのあかい血の流れない午後額
額きいろいあおいちきゅうにすむあなたの額
額あおいきいろいハンカチははためかない額
額だいだいのむらさき大根のうえでねむる額
額みずいろのあまいろの髪の中で目覚める額
額あかいはなだいろのそら見下ろしている額
額ももいろのにびいろの雨になる。K・N額
額額額額額額額額額額額額額額額額額額額額
Ⅲ.詩人による、抽象画のためのワークショップ
今からあげる色はどんな色をしていますか?(スケッチブックに描いてみてください。)・遠い星で地震がおこったその夜にその同じ星であなたが生まれる夜の色。
・叶えられなかった祈りを足指を折って数えながらあなたが死んだ朝の色。
・苗木として地面に沈められた卵のようにあらかじめうしなわれた恋の色。
・壊れた水槽の中を高速で歩行する腕時計のなかできみが見ている夢の色。
・人気歌手S・Rの左右非対称の鎖骨のなかで樹影のように流れる音の色。
・きのう逆立ちをしながら木になりつつあるあなたの爪先に咲いた花の色。
・交差点のまんなかで踊っているひとのくるぶしからこぼれおちる虹の色。
・あなたをさがして迷い込んだ路地裏を泳ぐ裏返されたてふてふの舌の色。
Ⅳ.うつくしい色のなまえは、すでにして詩です。
すでにして詩のようである色のなまえ。灰桜。
二藍(ふたあい)。
真朱(まそお)。
勿忘草色(わすれなぐさいろ)。
たゆたっている、映像作品のような色のなまえ。
潤朱(うるみしゅ)。
甕覗(かめのぞき)。
空五倍子色(うつぶしいろ)。
いいにおいのする色のなまえ。
紅梅色。
栗梅。
苺色。
香色(こういろ)。
耳をすますと音楽が聴こえてくる色。または、空をとぶ色。
朱鷺色(ときいろ)。
鶸色(ひわいろ)。
カナリア色。
色気のない名前をつけられた、可哀想な色。
国防色。
鬱金(うこん)。
Ⅴ.「X」という死神の視線をわたしは獲得してしまった。
六本木の国立新美術館で開催されている「ルノワール展」に、ルノワール作品の光学調査と題して、技法の研究のため、とのことであるが、ルノワール作品をX線写真でうつしたものが数点展示されている。X線写真によるルノワール作品は、色彩を剥奪され、人物は半透明になり、風景は溶解し、カンヴァスの裏の木枠が透けて見え、そこに浮かぶ「十字」があるニュアンスをおびてきてもいるのだが、X線は死神の視線。
どんなに若々しいうつくしい乙女の裸体も
オリーブの木の下の草原に横たわる幸福も
すべて亡霊へと変えてしまう。
そうしてX線による死神の視線を獲得したわたしは、あらためてはじめからルノワールの作品を見なおしていくのであるが、
パリ郊外、セーヌ河の洗濯船の亡霊/新聞を読む、クロード・モネの亡霊/アンリオ夫人の亡霊/ジョルジュ・リヴィエールの亡霊/読書するふたりの亡霊/テオドール・ド・バンヴィルの肖像の亡霊/麦わら帽子を被った女の亡霊/団扇を持つ若い女の亡霊/アルジェリアの娘の亡霊/シャトゥーのセーヌ河の亡霊/ロバに乗ったアラブ人たちの亡霊/エスタックのオリーブ畑の亡霊/ブージヴァルのダンスの亡霊/湖畔の風景の亡霊/エッソワ付近の風景の亡霊/ジュリー・マネの肖像の亡霊/胸に花を飾る少女の亡霊/エッソワの風景、早朝の亡霊/クロード・ルノワールの肖像の亡霊/モーリス・ドニ夫人の亡霊/カーニュの風景の亡霊/ロダンの肖像の亡霊/母と子の亡霊/闘牛士姿のアンブロワーズ・ヴォラールの亡霊/風景の亡霊/風景の亡霊/自筆書簡の亡霊/岩の上に座る浴女の亡霊/椅子に座る女の亡霊/麦わら帽子の少女の亡霊/浴女の亡霊/水のなかの裸婦の亡霊/水浴する女の亡霊/横たわる裸婦の亡霊/花飾りの女の亡霊/帽子の娘の亡霊/泉の亡霊/泉による女の亡霊/すわる水浴の女の亡霊/勝利のヴィーナスの亡霊/勝利のヴィーナスのトルソの亡霊/可愛い洗濯女の亡霊/ヴェールをまとう踊り子の亡霊/裸婦の亡霊/ルーベンス作「神々の会議」の模写の亡霊/花瓶の花の亡霊/ポール・ムーニエの亡霊/テレーズ・ベラールの亡霊/本を持つ少年の亡霊/縫い物をする若い女の亡霊/タンホイザーの舞台(第1幕)の亡霊/タンホイザーの舞台(第3幕)の亡霊/アネモネの亡霊/ド・ボニエール夫人の肖像の亡霊/イオカステー(神殿の舞)の亡霊/オイディプス王の主題による装飾パネルのデザインの亡霊/オイディプス王の主題による装飾パネルのデザインの亡霊/青いカップのある静物の亡霊/葉と果実の飾りのある若い裸婦の亡霊/薔薇の亡霊/イチゴのある静物の亡霊/ローヌの腕に飛び込むソーヌの亡霊/静物の亡霊/水差しの亡霊/横たわる半裸の女(ラ・ローズ)の亡霊/水浴の女の亡霊/髪かざりの亡霊/ムール貝採りの亡霊/りんご売りの亡霊/野原で花を摘む娘たちの亡霊/レースの帽子の少女の亡霊/花飾りのある帽子の亡霊/赤い服の女の亡霊/バラ色の服を着たコロナ・ロマノの肖像の亡霊/水浴の後の亡霊/風景の中の三人の亡霊/休息の亡霊
Ⅵ.ルノワールは黒(ノワール)の画家である。
としたとき、はじめてあなたの瞳にうつる色は何色?
※本作品は六本木・国立新美術館にて開催中の『ルノワール-伝統と革新』展(開催中~4/5[月]迄)を訪問して、そこで得られたインスピレーション等によって制作されました。同展は、毎週火曜日休館。開館時間は午前10時~午後6時、金曜日は午後8時まで(入場は閉館の30分前まで)。
遠方よりお越しの方、ご宿泊は「吉本芸人」&「六本木詩人」御用達の「ホテルアイビス」へ!
※『ルノワール-伝統と革新』展カタログより引用・参照箇所あり。
※「Ⅴ」は、『ルノワール-伝統と革新』展出品作すべてのタイトルより引用あり。









(11 票4.55)






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