ゆきがふってる。まったくかないません。
でも わたしは行く。
おお こんな日に?
はい さかなを買いにいかなければならないのです。
さかな。ろっぴき。
外は大雪。
こんな日に車では よう行かない。
歩いては もっと行きたくない。
あーしかし 行かなければなりません。
さかなを買いに。
わたしは うさぎの絵のかいてあるかいろを肩甲骨と肩甲骨のあいだにはりつけ、
母にもらった金色のダウンジャケットを着て
その上から えりまきをまきつけた姿はすっかり着ぶくれ。
だれにも出会いたくないかっこう。
いつもはくつっかけは底がところどころぬけている。
久しぶりに白いコンバースをはき外に出た。
一歩出たら外はさっそく ありありとさむい。
おかんジャケットのおかげで上はふくふくしているものの
歩くと何よりたちまち かおがさむかった。
かおに少しも てかげんない風がうちつけるから かおだけを ななめにして歩いた。
そうすると上半身が横を向いたようなかっこうになって
おかしな体そうをしているような姿勢になった。
からだのどこかに おもしがかかって どこかが伸びているようなかんじ。
なにもこんなゆきの日に こんな「ストレッチ」みたいなこと、
したくはないのだけど それより何より かおがさむいので
おかしな体そうの姿勢のままで わたしはすすんだ。
かおは さっきより まともに風をうけないような気がして気がまぎれた。
それでも まだまだ やたらと さむいのだった。
道は ゆきだらけ。
こんな日に外に出ているひとは いません。
いつもにもまして 車も少ない。
車が通っていくけど いつもの
おらおら おれは車だ どけ
という あの横暴なようすとはてんでちがって
大型トラックも こわごわ ゆっくり 通りすぎていく。
なんとなく それはかわいい。
さっきまでいばっていた ちんぴらが
やっつけられて しゅんとしているようなかわいらしさ。
朝から ここをだーれもあるいていないのか
それとも もうその跡もあとからあとからふるゆきが消してしまったのか
みちは だれの足跡もない。
わたしは ゆきのふるまちでうまれたのじゃないから
ちょっと こんなゆきは あまり見たことがなく
あるくほど ゆきに じぶんの足あとが ひとつひとつ ついていくということが
けっこううれしい。
道路をはさんだ向いがわから
もんちっちみたいな男の子がじてんしゃに乗ってやってくる。
ゆきにまみれて その子は じてんしゃをうまくこげなくて
じてんしゃに乗りながらも 足で地面をけって ようやっと進んでいる。
火鉢にじかに置いたみたいにまっ赤なかおは芯からこどもっぽい。
きょうは こんなにゆきふってるのに
この子は がっこうに行くのか
もう行ってその帰りなのかわからないけど学生服なんて着てる。
こんな日に がっこうってあるんだな
がっこうって ほんとに たいへんなところだ。
カーブをこえて すこし大きな道を行く。
あれ 知らないばしょに来たみたい。
ほそい木がこんなにあるんだと思う。
ゆきが 木の枝のりんかくをうきあがらせ、
いつものばしょにこんなにたくさん木があったことを ゆきによって知る。
のぼりくだりのある道をくだるとき
すべらないように てってこ てってこ
まるでおなかにたいせつなものが生きてるおんなのひとのように歩く。
そばを車がとおっていく。
大通りから ぬけみちに入り また だれにもふまれてないゆきのうえを
とっとこ行く。
白いコンバースのうえにゆきがかかる
やっぱりひとは ひとりも歩いていない
そりゃあ こんな日は だれだって家にいるだろうな と今さらながらにおもう。
ゆきの日は道のミラーに目がいく。
また ちいさなミラーがあった。
わたしは立ち止まりミラーを見て ミラーの中のわたしを見たら
家を出るときに ちらりとみたのとかわらない あのおんながうつっていた。
あまりにとうとつに こんな場所で現実をつきつけられると なぜかびびる。
さらに 歩いた。
ひとはあいかわらずいない。
奥まった道なので あるのは家と家と家と たまに何かあるとおもったら
やっているのかもよくわからないカスミ美容室。
そんなふうな しろい道を行く。さむい。さむい。白い。
わたしはコンビニに入った。
雑誌のたなの奥のほうに制服姿の女子高生がふたりいて地面にへたりこんでいる。
ああ まったく良くない光景だ、と明治のひとのように思いながらも
もっと見たくて近寄りたくなる。
ほかのひとがいるので そっちに行かれない。
女子高生は こんなさむい日にも みじかいスカートをはいている。
ごくろうさまなことだけど 少しかわいそうでもある。
レジで公共料金の支払いをして コンビニを出る。
ああコンビニはぬくい。
ドアが開けば さむくて ぬく、かっ、た、な。と ああ もう過去。
わたしは行かなければなりません。
行きはよいよい 帰りはさむい。
コンバースの中が つららのようにつめたい。
さっきまでテンポ良くふみしめていたゆきがコンバースにしみこんで
足先がつんつんしてきた。すこしはしゃぎすぎた。
ゆきを けちらしたり
ふみしめて ごきゅごきゅとなる かたくり粉みたいな音をきいたり。
人がいないのをいいことに やりたいほうだいだった。
休みたい、けど 休む店も このへんには ない。
お茶のみてー のみてー
そんな感情のまま スーパーに着いた。
スーパーに入ったら また たちまち めがねがくもる。
パンとさかな、をかごに入れる。
スーパーはあたたかく もうしばらく あのさむいところには出たくないので、
意味もなくシャンプーのたななどを見る。
なんか ないかな、と かなり買う気もちになって見るものの
ほしいと思うものは 何もなかった。
しかたなく 雑誌のたなに行って立ち読みする。
ミス着ぶくれのわたしには
雑誌にのっている きらびやかな洋服や化粧品は ほとんどにあいそうになく、
それらは どこか とおい世界のできごとのよう。
ザ ギンザを見ていたら
あまりにかっこうよすぎて はずかしくなってきた。
何かに書いていた
「かっこいいはかっこわるい かっこわるいはかっこいい」
この法則でいくと わたしは とてもださいので
かっこよくて おそろしいほど、ということになるのか?と思ったけど
それは ちがうような気がした。
こんなゆきが これからまだ何度もふるのだったら ながぐつを買わなければとおもう。
ながぐつは だれかのはなしによると すぐそこの鳥のマークのホームセンターで千円くらいで売ってるらしい。
この着ぶくれたかっこうに ながぐつをあわせたら いっそう かっこわるいだろう。
かっこよくてもわるくても
どっちにしても たぶんこれが生きていくということなのだ。
ゆきの日
今橋愛
雪ふみて小夜のふかきにかへるなり
今橋 愛(いまはし あい)
1976年大阪市生まれ。歌人。
2002年、「O脚の膝」100首で北溟短歌賞受賞。
著書に歌集「O脚の膝」。同人誌〔sai〕、snell、未来短歌会に所属。
ホームページhttp://www.aaaperson.jp/















