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野点

和合亮一


茶と泥に取り憑かれたような茶碗 
さっき太平洋が満ちて消えてしまった 
山も空も逃亡してしまった
泥だらけの茶碗 それはすなわち私だ
飲み干してみるがいい
するとこの草の原で
誰もいないのにボールが転がっているのが分かる
この緑色の泥水を

飲み干せ
誰もいないのに
凧が揚がって電線に絡まり
高い電圧は奈良時代まで続いている
誰もいないのに誰か居る
トス!
太陽が輝くので
決勝点は緑色の地球
大歓声があがる
雲が両手をあげて西へ走る
風が陽気に歌いながら行進
大満足
青々とした宇宙に
緑の足をあずけよう
草むらに寝ころぶと
手の平に虹
地球は動いている
トーナメントは終わらない
また
決勝点
草の息が気持ちいい
飲み干すと
誰もいない

 飲み干せ
 誰かいる
 新しい矢じりが飛んできて
 肩や足を貫くのをどうしようもない
 目の前の雑兵の首が
 勢いよく飛ぶ
 馬が倒れた
 恐ろしい勝ち鬨
 敵の旗が向こうから大量に押し寄せて
 真っ赤だ はためく
 これで国も終わりだ
 空を見上げて叫ぶ
 僕は背中から斬られた
 飲み干すと
 誰もいない

誰もいないのにボールが転がっている空き地
誰もいないのに凧が上がって電線に絡まっている
誰もいないのに奈良時代が滅んでいる

 茶を点ててすぐに
 氷河期
 六千五百万年と
 あなた
 さて
 泥だらけの
 茶碗を
 回す

飲み干せ
真緑の現在
泥に取り憑かれているぞ
野原に呪われている
茶碗には緑色の悪意
波立ち始めている
シーラカンスが跳ねている
飲みながら
海底の地鳴りが聞こえる
僕は震え上がるしかなかった
やはり飲み干せない
四月という残酷を


                

「洪水」誌発表作品

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和合 亮一(わごう りょういち)
1968年生まれ。
第1詩集「AFTER」で第4回中原中也賞(1999年)、第4詩集「地球頭脳詩篇」で第47回晩翠賞を受賞(2006年)。
読売新聞・日経新聞(夕刊)・ディズニーファミリーサイト等に連載中。

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