のどかな地上という
憧憬は 恐ろしい無垢の恩寵
人はこれ以上の恩寵を創造しない
家々の祝祭に招かれた
アーモロートへの憧憬を奏し
産声よ 銀皿を叩け
この地に血の降るたびに
緑は芽吹くのだ
水晶の球をもたげて
あなたと私はルビンの壷
対面しあい結合した壷
罅割れもしない底なしの器
時に 臍の緒で結ばれた車輪となり
キュベレと名づけられた水瓶
一滴の波紋からも実を咲かせ
あらゆる災厄から蜜を運ぶ
あなたと私の唇は 一から多への
無限遠の交わりへの またとなき器
「終焉」は愚者の台詞に付き物
アルレッキーノの口癖
各地の伝承は英雄を生贄にした
かも知れない
呪わしいコーラスによって
いや客寄せパンダは撤収し
幻灯も失せ 大看板も取り払われた
おお 共食いのサトゥルヌス
アメーバのうちに 魂は弾み
彗星の方位を示し 弧を描き
一斉に飛び立つ 光のさざめきとなって
この物語は不滅の文字で刻まれている
ピュシス ここに革命は生まれなかった
暗い島の民に何の関わりがあるのか
かつて何かに対峙したものはみな敗れ去った
敗北は戦いの烽火
勝者への捷径 不朽の営為といわれた
後鳥羽院はセント・ヘレナに流された
スティグマ 生あるものたちの
永遠 これは悪夢の不易性である
狂へる野原へ!
何れの門から潜り抜けても
「終止符」はない
球体は神の揺籠で平らとなる
機織の針で両目を抉られないために
いざ 戸口を叩け
時間はアンフォルメルなものだ
トラクターは水牛になり
冬を待つ遠心分離機も
女たちの憩いになる
三美神の頬に口づけをしたところで
あらまほしき順路はない
私の認識から生まれた
他者も和解なき修辞なのだ
他者も私以上のものを案出しない
それは悪夢のようだが 悪夢ではない
現実という声もある
争いたいのだ 誰しも血みどろに
愛しあうことは 柩の中にあるのかも知れない
国家は稲光とともに来る
徳は蛮行から 秩序は殺戮から
祖国は地平線の向こう側に揺曳する
おお、条理なき道の栄光!
原生林に迷い込み 野晒しの屍となる
「神」の介在しない栄光!
青年は生きながらに死にたいのだ
ユダに逆らい地に洩らしたいのだ
富は甘美な理不尽と
靴を舐める潔さを携えて
窒息した魂の放つ臭気を充満させ
捨てられた紙屑はナルドの馨る臀部となり
その娘は娼婦になるしかないのだ
救われてはならないものもある
救うことのできないもの
虐げられた人々よ おまえたちも輪のなかで
踊れ 踊れ よこしまに
おまえの乳房が憂鬱に浸るまで
褐色のエヴァ 土人どもの園で
地下への階下に
老いた路上生活者の歌が響いた
それは古い歌 カルフレム・ヤハムの歌――
都市は モミの木の茂る塔のなかで
獄炎に放り込まれる
おお、利潤よ、臍よ、
さようなら
人目のつかない炉辺で
死別した最愛の思い出も
一日のパン屑となって撒かれるのだ
耳は硬貨 鼻は原始
口は偽証 目は色欲
頭は轆轤 悪魔つきの轆轤の
日向に群れる鳩の輪に
真夜 無垢は己の影に戦慄いている
おお 畏怖せよ胎内を
おまえの歌に弦は弾かれた
カルフレム・ヤハムの声が聴こえる
それは 不明なる歌
口を塞がれても
無数の手で書き連ねられる歌
絶対の沈黙によって
この地に留まる歌
征服者の血脈の
現代に失われた聖なる錯乱の
毟り取られたコンドルの羽根の
悪夢の 涯しない地下水脈で
君主は涙の谷に慈悲を与え
恐るべき子供が権威に舌打ちをして
思い思いに収奪する四肢を生やして
みすぼらしい裸体となるまで戯れる
高利に吼える犬は 最も高利に近いものだ
禁欲を念じた虎は 狂ったように性交した
違反に対して懲罰を加えるものに
如何なる正当性があろう
あるいは反動的な諸々の報復
寡黙 あるいは黙殺
他人という幻想の渦巻に
田を鋤き 高利を貸し出す おお 兄弟!
階級闘争の歴史は 権力への階梯
とされた時代は 各地の民謡に懐かしい
いまや人は機械仕掛けの神に磔に処せられている
身動きの取れない洞窟で
昆虫のような触手を動かし
救いがたい筐体の前で
日々 標本採集をする以外にない
われわれの幻想的な一角は
万能な合理によって占められている
農耕の酒宴によって
古臭い習俗に 死が宣された
川岸にレズビアン
恨めしそうに絡みつく彼女たちの食指
ウツロ舟に没落貴族の末裔
水先案内人 落胤を抱いた千の手足
この連帯によって
アイオーン! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
牢獄で糞尿に塗れた文字のことだ
文学とは アカデミーはパウロの僕
文学とは まれびとの哀しみ
文学とは ゲッセマネの祈り
しかし 絶望ではない
絶望は意識しないものにこそある
この神域に進むのは他でもない私
自由という刑罰に処せられ
単独者としてこの面前に立つ
誰の励ましも 誰の歓迎も 誰の慈悲も受けない私――
――ああ、死刑台に立たされたころの懐かしい香り、これがどんなにか青春を太陽よりも灼熱的な、空よりも広漠たる嘆声を告げただろう。うらぶれてもなお愛おしく、どこまでも、どこまでも、愉快な一日一日を、処女の鮮血は湛えていた。神が手中にするすべてをがらくたのように嘲ることが出来たのも、己の埋葬を幾回も惜しげもなく見送ることが出来たのも、ここでの激烈な波濤が世界を孤立させ、全人類を煙に巻いた後で、この上なく崇高なる望みを、唯一にして善なる計らいを、天井的に抱き締めることが出来たのも、瑠璃のような色づきのなかで、堕落への儀式を通過したのも、現世の転びゆくあかやぎのなかで、何一つ不自由なく、如何なる地上にも存在したことのない狂乱を迎えたのも―― ああ、死刑台に立たされたころの芳しい祈り!
進化も退歩もない現代は
過去と未来に底なしの沼沢地をもっている
多くの事物が失われ一つの幻が立ち上がる
想像するしかないのだ 私たちは
起て、おお、イロニア! 廻せ
宣れ、呪え、イロニア
石器時代が大量破壊兵器をもたらし
文房四宝は廃れ キーボードとなる
私たちは道具を手放さない
たとえ 不死の臓器が提供されても
おお、イロニア! 廻せ
この世には一度として平和的解決はなかった
「プロモーターならいたわ」
マリアは事あるごとに、そう語った。
戦争は日常の延長上にある
何れの死も英雄的な死である
名誉は死を怖れるものたちの畏怖
こうして 他国は敵国という教育は
国境線という割拠性によって永遠化される
しかし マリアは実態を見なさいとは言わなかった
自己正当化のための暴力反対も嫌悪した
ただ 罪を犯したことのないものは
石を投げなさい と繰り返していた
マリアは事あるごとに、そう語った。
金融資本という大足が国境線を軽々と踏み越え
近代の夢想した「帝国」が衣装を変えて躍り出る
ナショナリズムは背を向けて語られる
継ぎ接ぎの襤褸服のような歴史観で
尾を振る犬のように文化という愛嬌を振りまき
象徴も属国も 惟ながらの道にして今昔あり
四海 穏やかならぬという声は
イデアという牧洋犬に追い回され
配慮と慰謝という名の下に墓場へと渡される
ミズナラの木に降れ 産土よ
玉砂利の鳴る 細波のとこしえに
塩沫の留まる限り
畏くも八百萬の神々に
豊葦原の千五百秋の瑞穂の食国に
弥栄ゆ ゼフィロスの息吹に
定住地のない この漂泊と望郷
赦せ 汚らわしい肉心を
死を先送りにする唯一の方便が
堪えがたい現世を通して
永遠に来ることのない楽園を夢みる
鮮やかな幟の間を縫うように
様々な顔が闇のなかから次々と現れ
白々しい空に溶けてゆく声たちの外で
トネリコの巨木は倒された
生命の井戸は あまりにも狭い
ミミールの泉はあれから今も干乾びている
なだらかな山に訪れる虹の夜
安らかに住まう魂もなく
私は一つの誤解となる
東西も左右もない
私に苔が生え
善も悪も創る
私に無数の虫が沸き
時代の腕に投げ出された私は
川下で動かぬ礫となる
現在は進歩の到達地点ではない
石版に蛆が這おうとも
生は永遠に免責される
ティターンに向精神薬でも与えないかぎりは
――宣べ伝える人がいても、どうして聴くことができるのか。英雄なき時代に、監獄は繁盛するしかないだろう。何とも滑稽だね、豚箱は。かつて英雄は神に正しからぬ思いにわたし、なすべからざる事をなすに任せよ、と命じられ、そのとおりに行動したが、おれたちは時に恵まれなければ、誰も英雄になれないのさ。だが、その時はもうないだろう。それに、社会はここほど露骨ではないが、やはり監獄だ。いや露骨ではないだけに、ますます陰湿で、ますます厭味な監獄だろう。いわば、おれたちは渡り鳥。監獄から逃れて監獄にたどり着くだけ。そのためなら、おまえさんのようにどこでも餌を見つけるさ。つまり、世の中にある自由というやつは、最も巧妙に回遊し、回遊し、回遊するものにしか許されない。
地球の重力に比べて
世界は軽い
言語は風雪に耐えない
皮膚は水に垢を浮かべ
年月に鐚一文残さない
名はない
あるものは微動し
光に放散する
けだものの怖れ
共時するものは隔絶し
片時も相交わされることはない
私たちという亡霊は
彼処を徘徊する老人
地中深く這う茎
この絶壁からも
ダリヤは大輪を咲かせる
――愛よ、目覚めたとき息絶えたものがある。うんざりするほどの希望と途方もない期待が幾つもの暗殺を手掛けてきた時代に、死の瞑想が喚起する。宇宙が黄金の夢で溢れさせた時代が、今となっては偲びもせず、彼女の太腿に気怠そうに付着する。――燦然と飾り立てている数々の途方もない異郷の品々を、無垢だらけの貧困が食い物にする。見てくれの王国が、正義と友愛をちらつかせ、大空位時代に勇ましく闊歩する。略奪と審判を何と呼べよう? 価値という石榴の腐臭が鼻につく。ああ、一体なぜ! 彼女の血が苦痛を身籠もる、おれの児が深淵のなかで溺死する。権利が保障すべきものがどこにあるのか? 内なる麗しきものか、それも欲情的な、あの吸血鬼の。――地上のすべてを手にした神殿がジャッカルと禿鷹の巣窟と化す。金品を売りさばき、おれの声は姦淫する。ああ、一体なぜ! 自然であることを卑しむのか、この世の醜さを束ねても、おれたちの飢餓には匹敵しない。貧しく、渇き、欲している、品性も、貞操も、矜恃も。
メギド
國米隆弘









(25 票4.72)





