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箱入り少女エレベーターガール

文月悠光


ふさわしく配された数字ボタンの前で、女は足を組む。毛羽立った灰色のスカートがすぼまっている。その肩ごしに私はボタンへ手をのばす、女の視界をさえぎりたくて。8に触れるよりも早く、ひじが女の髪をかすめ、その黒々とした枝幹を鈍く揺らした。
(8は点灯しない。女は私を見ない)
開いたさきへ女はかかとを鳴らし始める。私の鎖骨にきわやかな息が流れた。振り向けば、口づけを乞うて、背後から褐色の手のひらが差し出されるのだ。
扉は再び手を合わせ、いのる。
いそいで のぼるから さあいそいで
(金属パネルから不自然に浮いた三角形には剥落した縦長の字で「のぼりたい」と刻まれていた。ひとさし指一本で、あなた、赤ランプを仄かに腫らす)
脳味噌が浮力を帯びて波を待っている。
いつかさえぎられてしまうなら
今この手で覆う、私の目。
潮気に曇る暗幕を見つめながら、私
赤いハイヒールが近づいてくるのを
ただ聞き澄ましていた。



(初出2月14日朝日新聞夕刊)



文月 悠光(ふづき ゆみ)

1991年 札幌市生まれ。
2007年 第3回詩学最優秀新人賞。
2008年 第46回現代詩手帖賞。
2010年 第一詩集『適切な世界の適切ならざる私』(2009年 思潮社)で第15回中原中也賞受賞。
URL:http://www.geocities.jp/hudukiyumi/


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1 コメント “箱入り少女”

  1. かよう より:

     うーん、若干読みにくい箇所はあったのですがなんとか読めました。こう言う詩は感想に困ります。

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