箱入り少女
文月悠光
ふさわしく配された数字ボタンの前で、女は足を組む。毛羽立った灰色のスカートがすぼまっている。その肩ごしに私はボタンへ手をのばす、女の視界をさえぎりたくて。8に触れるよりも早く、ひじが女の髪をかすめ、その黒々とした枝幹を鈍く揺らした。
(8は点灯しない。女は私を見ない)
開いたさきへ女はかかとを鳴らし始める。私の鎖骨にきわやかな息が流れた。振り向けば、口づけを乞うて、背後から褐色の手のひらが差し出されるのだ。
扉は再び手を合わせ、いのる。
いそいで のぼるから さあいそいで
(金属パネルから不自然に浮いた三角形には剥落した縦長の字で「のぼりたい」と刻まれていた。ひとさし指一本で、あなた、赤ランプを仄かに腫らす)
脳味噌が浮力を帯びて波を待っている。
いつかさえぎられてしまうなら
今この手で覆う、私の目。
潮気に曇る暗幕を見つめながら、私
赤いハイヒールが近づいてくるのを
ただ聞き澄ましていた。
(初出2月14日朝日新聞夕刊)









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