板の間の隅を這う
見たことのない小虫の
精一杯の生の営為が
チロチロと燃える
上空を行く飛行機の
通過音の下
チロチロのチを
わたしにください
チだけでよいですから
わたしにください
小虫がやがてひらく
眠りの戸を
わたしも捜す
戸はあるのか
ないのか
それすらもわからず
もしもひらくならそれは
地球を脱出する
宇宙港であるに違いないと
夢見て
小虫を見失ってしまった
二〇〇三年の十一月まで
療養型病床群の片隅で
蝋細工のように
手を組み合わせていた
祖母の寝顔よ
あなたの尊顔は
家に戻られても
旅立たれても
今も宇宙港に向けて
首をずり落としたまま
あの病床群の中に
残っているのではないですか
チロチロと
火の気のない薄闇の中に
灯っていましたね
そのように
かそけきものの絶対の強さで
燃えあがる力が
今のわたしにはありません
チロチロのチを
わたしに貸していただけませんか
小虫よ
祖母の寝顔よ
ひんやりとした土の香の
あまりにあふれる荘厳よ
(「ウルトラ」13号より)
四月の死角
渡辺めぐみ
渡辺 めぐみ(わたなべ めぐみ)
東京生まれ。
第一詩集『ベイ・アン』(二〇〇一年、土曜美術社出版販売)収録の一篇で第十一回詩と思想新人賞受賞。
第二詩集『光の果て』(二〇〇六年、思潮社)で萩原朔太郎生誕一二〇年記念・前橋文学館賞受賞。















