六本木詩人会 六本木詩人会 ホテルアイビス六本木

老人

小川三郎

ぼくたちはもうほんとに
死ぬために生まれてきて
乳房のことなんかを考えている。
生まれつきの木乃伊である心は
しっとりと濡れた異変を常に求めている。

花盛りの午後
造花の優しさに体を浸し
生きるなという言葉を考察した。
ニクロム線の花束を抱え
祝福を今日のこの日に
ぴったりと合わせる。
見えなくなるほど今日は細い線になり
時間は誠実に貫ぬかれた。

一日に一度しかないその瞬間
雨が激しく降ってぼくたちは無表情だ。
そんな小さな変化のために
一晩中意見を交わした。
あなたは下着を下ろして私の前に立っていた。
それは変化ではない。
そこから始まる幸福と不幸を
ひとつの長い物語としたい。

奇妙な写真が撮れたので送ります。
そこではもうみんな
この世のものではなくなってしまって
一通りのことを忘れてしまったようです。
顔のない双子の写真もあります。
ぼくたちは好奇心に苛まれ
もはや動物じみていた。
死を求めたと思ったら
死とは別の死を求めたり。
ある爆発から生まれた
その場限りの完全体としての
まっくろな蝶とか。

世界にぼろぼろにされてこいとあなたは言った。
それはあなたにして欲しかったのに
くだらない傷だとあなたは言うが
それはとても根が深いのだ。
その奥では既に私もあなたも知らないものが
生まれつつあるのだ。
それは私たちを食い尽くし
ただ欲望として大地に刺さり
海だ、海が必要だ、
消え去る前に
みんなが眠ってしまう前に。

十字架のような明るさの下でさえ
血まみれだった人たち。
そんな奇妙な眺めもあります。
私は知らない場所の土を踏みしめ
涎にまみれて春風に吹かれながら
枯れ落ちた花に如雨露で水をやっている。
やがて滝のような墨汁が降りぼくたちを
元の色に戻すまで。



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小川 三郎(おがわ さぶろう)
神奈川県生まれ。
2002年から2005年までの間、現代詩手帖投稿欄に詩を投稿。
以後、第一詩集『永遠へと続く午後の直中』、第二詩集『流砂による終身刑』を思潮社より刊行。
『ルピュール』同人、『酒乱』同人・編集委員。

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