わが一子大五郎(仮名)は、現在2歳2か月。最近、よく歌を歌う。お気に入りは、「きらきら星」である。〇歳児のときから使っている「お星さまのコーラスジム」というおもちゃがあるのだが、これが「きらきら星」を流しながら、赤や青のライトをチカチカさせるせいだろうと思う。アメリカのおもちゃなので、歌詞は英語である。それと、よく見ているBaby TVという英語の教育番組の影響もあるのかもしれない。ただ、大五郎の歌は英語っぽい……のだが、ものすごい「大五郎語変換」を経て、なんだか分からない歌詞になっている。たとえば、こんな風に。
うんこ~うんこ~でんちゃ~ご~♪
(Twinkle, twinkle, little star)
か~ぁいあんだ~でんちゃ~ご~♪
(How I wonder what you are)
でんちゃ~でんちゃ~でんちゃ~ぎ~♪
(Up above the world so high)
うんか~でんちゃ~でんちゃ~か~♪
(Like a diamond in the sky!)
……最初のほうは、トゥインクル、トゥインクルと発音しようとして、こともあろうに……。正直言って、来客中や仕事の電話にでているときに、後ろで歌われると、大変恥ずかしい。しかも、実はこの出だし部分が、大のお気に入り。毎日毎日、暇さえあれば、「うんこ~うんこ~♪」である。本当に困っている。真面目な評論を書いているときなど、背後で歌われると、笑ってしまってとても書けない。また、後半かならず「でんちゃ」が入る。なぜだろう。
ほかによく歌っているのが、イギリスのロックバンドThe CribsのCheat on meである。親がYou Tubeで見ていたのをいたく気に入ってしまったのだ。サビの「チート・オン・ミー」が、絶妙に大五郎語の琴線に触れたらしい。なお、サビばかり繰り返して歌う。こんな風に。
か~ま~でんちゃ~♪
(Like manic depression)
あう~ぱ~あ~いぃ~♪
(and hyper sexuality)
だ~ぁ~だ~だ~でんちゃ~♪
(That’s another, that’s another)
ち~どんみー!(顔を赤くしてシャウト) ち~どんみー!(さらにシャウト) ぁあ~~~(思いっきりシャウト)!
(Cheat on me, cheat on me yeaaah)
とくに、「ち~どんみー!」のあたりは、大興奮してシャウトするのである。なぜこの曲が気に入ったのかは、不明。2歳児が、「俺を裏切ってみろよ」とか歌っているのは問題かもしれない。しかも、cheat on には、「浮気する」というような意味もあるし……。やはり、子どもの前でロックを聴いてはいけなかったのか。そして、やはりこの曲も「でんちゃ」が入らずにはおかない。その点も謎である……。
そんな大五郎だが、最近、この歌好き特性を利用できることに気がついた。大五郎は、幼児番組「いないいないばぁっ!」で歌われる「ぐるぐるどっかーん!」も大好きなのだが、この歌を歌うと、必ず足を止めて、その場でぐるぐる回るのである。先日、公園で遊ばせていたところ、ものすごいスピードで道路に走り出そうとした。通りは車が多く、危険である。最近、大五郎は駆け足が速く、徹夜明けで朦朧としているような場合、私には追いつけない。まずい。止めなきゃ!! そう思って、私はとっさに、恥も外聞もなく大五郎の背中に向けて歌った。
うれしくなっちゃうなーあっ♪
ぐるぐる ぐるぐる ぐるぐる ぐるぐる♪
たのしくなっちゃうなーあっ♪
ぐるぐる ぐるぐる ぐるぐる ぐるぐる ぐるぐる ぐるぐる どっか~ん!
案の定、大五郎は足を止め、にこにこしながらその場でぐるぐる回りだした。追いついて、捕獲成功である。やれやれ。だが、周囲を見ると、大五郎だけではなく、その場にいた幼児数名が、いっしょになって、ぐるぐる回っている!? 何だこれは……。その子たちのお母さまが、横でくすくす笑いながら言った。「うちの子も『ぐるぐるどっかーん!』大好きなんですよ~」と。おそるべし、幼児番組! おそるべし、歌の魔力!? しかし、驚愕する私を尻目に、大五郎と幼児たちは、その場でにこにこしながら、回りつづけている。
しかたなく、私はつづきを歌った……。
<つづく>
無宿渡世母がゆく ―六本木詩人会編⑥ 大五郎語変換はあらゆるものを大五郎化する、のか?―
水無田気流
水無田 気流(みなした きりう)
1970、神奈川県生まれ。早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
現在、東京工業大学世界文明センター・フェロー。
2006年、第1詩集『音速平和』(2005年、思潮社)で第11回中原中也賞受賞。
2008年、第2詩集『Z境』(2008年、思潮社)で第49回晩翠賞受賞。
評論に『黒山もこもこ、抜けたら荒野 デフレ世代の憂鬱と希望』(2008年、光文社新書)。
URL:http://blue.sakura.ne.jp/~intermezzo















