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リトアニアの壁に書かれた恐竜の俳句

竹浪明


 2009年9月30日から10月6日まで、リトアニアで「ドルスキニンカイ詩の秋と第5回世界俳句大会2009」が開催され、各国の詩人達が集い、日本から招かれた12名のひとりとして参加してきました。
 ドルスキニンカイの街の宿泊先ダイナヴァ・センターに着くと、向かいの壁に、いくつかの俳句が各国語で書き連ねられていました。そのひとつは俳句×写真集『恐竜×ヴィーナス=17文字』に収録した次の句で、少し怪しい日本語と、英語・リトアニア語の3カ国語で記されていました。


恐竜に 代わりし人類 花粉症


 壁に書かれた自作句に迎えられるとは想像もしていなかったので、とても驚くと同時に感動しました。リトアニア滞在中、4か所で朗読の機会がありましたが、この恐竜の句は大変ウケました。最初は首都ヴィルニュスのリトアニア作家協会事務所で、まずその句を詠むと温かな笑いが起こり、続いて次の句を詠みました。母国語、次いで英語、というルールに則って。


春の雲 水の輪廻に 倦みて浮く

愁い立つ 阿修羅の枯れし 三十指


 ドルスキニンカイでは、高校での俳句実作講座もご依頼いただき、それも楽しい体験となりました。リトアニア語は全く分からない上、実際に会話するまで現地高校生達の英語力も見当がつかず、もしかするとレベルが非常に高く、こちらが英和辞典を引き引きになるか、その逆で通訳が必要になるか、そのいずれの場合も講座はスムーズに進まないと危惧していましたが、幸いにも、ほどよい英語でコミュニケートでき、また学生達は好奇心からか目も表情も輝かせ、熱心に耳を傾け、ささやかなジョークにも教室中で笑い、盛り上げてくれました。
 そして彼らにとって初めての俳句実作では、一人の学生が、こんな句を作ってくれました。


All time I was reading
All time I was thinking about river
My name is Akira


 「いつも読書していました」とか「いつも川について考えていました」とは一言も言いませんでしたが、歓迎の意味を込めて名前も入れ、イメージで挨拶句を作ってくれたのでしょう。「reading」と「river」の出だしで韻を踏みながら。
 この講座をはじめ、いろいろな場面で感じましたが、きっと、もともと詩の好きな国民性なのでしょう。

 翌日は湖に面した、美術館のバルコニーで朗読会があり、そのトップバッターに指名いただきました。


雪の音の 芯に至りて 杉倒る


五重塔 五層に雪の 翳重ね
木枯が こがらしを咬む 繁華街


 十月初め、すでに晩秋を感じる地の野外朗読でしたので、こうした句を詠みました。朗読後、バルコニーから湖畔の客席へ、白いヴェールと赤い薔薇がそこここに敷き置かれた広い階段を下りると、各国の詩人達からも俳句を褒めていただきました。
 朗読会が終わると、その階段で、地元の若者達による合唱・朗読とダンスを組み合わせたパフォーマンスが披露され、ヴェールと薔薇の配されていた理由が分かりました。それらはパフォーマンスに婚礼や葬礼の儀式的なイメージをもたらす小道具でした。しかしまた朗読者も、その儀式に知らず知らず加担していたのかも知れません。

 午後は同じ美術館の一室で、絵本作りのワークショップをやはりご依頼いただき、墨による絵巻作成を提案しました。参加者の年齢層は小さなお子さんから大人まで幅広く、3つのテーブルに分かれ、テーブル毎に1巻ずつ、そして端から順に各自思い思いの墨絵を描き連ねてもらうと、民俗的なタッチの木や鳥や蛇、文様などが次々と現れ、面白い絵巻が仕上がりました。さながら「墨絵によるリトアニア民俗詩集」が。

 リトアニアは琥珀の産地で、ヴィルニュスに戻ると琥珀美術館にも案内していただき、館内には、長い歳月と鮮やかな匠の合作の数々が、ゆらめく色を湛えていました。乳白色の大きな白琥珀も、艶やかで豪奢でした。
 自由時間にひとり散策して訪れたセント・ピーター・アンド・ポール・チャーチ、つまり聖ペテロと聖パウロの二大聖人の名を冠した教会は、堂々とした外観に、バロック様式の漆喰と彫刻に埋め尽くされた内装もすばらしく、クーポラ(丸天井)からクリスタルの華麗な船が釣られていました。それは“バロックの森に浮かぶ光の船”でした。
 この他、どの教会や美術施設に入っても、「美への意気込み」と呼びたい、力強い魂を感じました。ソヴィエトの支配に耐え、独立を勝ち取ったリトアニアの人々にとって、文化はアイデンティティそのものと理解しました。

 リトアニア滞在も終わりに近い10月5日が誕生日で、前夜、共に飲みに行った各国の詩人達から、5日午前0時丁度に乾杯と歌で賑やかに祝っていただきました。
翌6日夕、川に面したレストランで行われた、今大会最後の朗読会では、マジックインクで“Happy birthday ! Akira”と書かれた青い風船を手渡され、司会者に「昨日誕生日の」と紹介されて拍手が鳴りやまず、再び「恐竜に…」と詠むと、盛大な喝采をいただきました。「春の雲 水の輪廻に 倦みて浮く」では風船を雲に見立てて掲げ揺らし、またの喝采に、倦むことなく浮かれました。
 朗読会終了後ワインをおごっていただき、前夜からお祝い続きの、リトアニアでの忘れられない誕生日となりました。壁に記す俳句に選ばれたことと言い、朗読する度に喝采や好評をいただいたことと言い、恐竜にも感謝しなければなりません。

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竹浪 明 (たけなみ あきら)
http://takenamiakira.jp
映像作家・文筆家・東京造形大学映画専攻非常勤講師。
「蘭賞」(俳句)、「平間至写真賞優秀賞」「文芸社ビジュアルアート社長賞」他受賞。
俳句×写真集『恐竜×ヴィーナス=17文字』(文芸社)、 写真集『象と大樹と子供たち』(角川学芸出版・収録写真によるTシャツが「赤十字グッズ」に)他。
監督映画『のら暦*ねこ休みネコ遊ビ*』(UPLINK)他。

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1 コメント “リトアニアの壁に書かれた恐竜の俳句”

  1. 竹浪明さんの個展にお邪魔し,詩を二首作った

     竹浪明さんは,映像作家,文筆家であり,詩人/俳人。世界俳句協会のイベントでお会いする間柄だし,リトアニアへもご一緒した。
     ドルスキニンカイでバスを降りたら,ベニア板…

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