ゆきがふってる。
こまかくちぎったガーゼのような
数えきれない虫のような ゆき。
パーキングに車を止め
車から降りると、
山下達郎の クリスマスイブがきこえてくる。
なんだかなー
このすーぱーは さいきんずっとこの曲をかけているのです。
すーぱーに入ると、
店内は 午後すぎの
ちゅうとはんぱなじかんのため すいていて、
店員は いつもみたく
きびきびしていなくて
店員同士で 話をしたりして気をぬいている。
てきとうにみていて
あげもののとなりの
おべんとうのところを見てたら
お好み焼きとか 焼きそばの となりに いか焼きがあった。
大阪名物 いか焼き
とタグが ついてある それは
とうめいな なみなみの プラスチックのいれものに入っていて
ソースが
みどりいろのはっぱに模したバランにまで
いちめんべっとり ついてて 、
あきらかに おいしそうじゃなかった。
そのいか焼きを かいものかごに入れた。
ぜんぜんおいしそうじゃないのに
迷うことなく
会計をすまして そとに出ると
さっきより ゆきはもっとたくさんになっている。
「これが ぜんぶ虫やったら きもちわるいなあって いつも思う」
むかしむかし つきあっていたひとが
そんなことを言ったから
とけてなくなる、こういうゆきみるたび なんとなくそれを思いだす。
あー やさしいひとだったっけ
かおをあげて ゆきをみた。
ちいさな ちいさなゆきは さっとななめに来てわたしのかみにとまった。
まだ 山下達郎が きこえている。
わたしは いま さびしいのだと思った。
おいしそうじゃない ほしくもない
いか焼きなんか買って。
ほんとは さっき
大阪名物 の 大阪 の文字みたら
きゅうにおおさかが ものすごく恋しくなったのだった。
でなかったら
こんなまずそうなもん 買うはずなかった。
大阪
とみたときに
大阪名物なんて うそいえ ここおおさかじゃないじゃん
とおもいつつ
こころが どこにもふれていない たよりないのになったのだった。
大阪にいたころは
こんなふうに 大阪を思うことはなかった。
とくに思い入れなんかなかったし べつにすきじゃなかった。
いつも どこか とおくにいきたくて
できれば 離れたかった。
それなのに わたしは いま さびしかった。
気がつかなかった。
けっこう げんきに 暮らしてる と思っていた、自分では。
のに さびしかったのだった。
こんど大阪に帰ったら
「あんたなにしてんの 」
「あんたいいかげんにしいや そんなんしてたら 目え くりぬくで 」
とか べつに どうということのない、
あー なんというか。
はなしがしたいと思った。
家へとくるまを走らせる。
坂本龍一のおんがくが わたしに やさしい。
なまえも知らないおんがく。
でもなまえなんてかんけいない。
今 このしゅんかんの こころに沿って
やわやわとしたところへつれてってくれる やさしいおんがく。
フロントガラスから ゆきが見える。
こっちにむかって ふっている。
これが虫なら 大群だ。
たしかに 虫ならきもちわるいな。
ふいに
なにもかもを なくしたような気がした。
どこを走っているんだろう
なんで ここに来て
ここに住んで ここにいるんだろう
ぜんぶ記憶がとんだような
へんな かんじに いっしゅんでなる。
ときどきなるこのかんじは なんなんだろう。
これから どこに行って
わたし どういうふうに生きていくんだろう。
ああ けんとうがつかない
なにもかもが 自由で
だから がけのふちにいるように あやうい気がした。
でも あやういのに そんなにはこわくないのだった。
おんがくは 青猫のトルソ という曲にかわっていた。
おんがくが やさしい やさしい やさしいよ。
でも やさしくても
ひとは 過去のどこにも さわることが できない
あいちゃん このまちにきてよかったね
あいちゃん いきててよかったね
あいちゃん きがついてよかったね
あたまのなかで
わたしなのか
むかしのこいびとなのか
それともほかのだれかなのか、わからない
でも やさしいこえがした。
どこにいったって ぜったい わすれない。
わすれない。
この感情や いろんなこと
今までのこと ありとあらゆるすべてのこと。
わすれない。
わすれてない。
家につくころには
こころは もう すっかりしわくちゃで
ゆめをみたあとのように わたしは放心していた。
いか焼き
今橋愛
どのほしがほんとにたいせつかっていうことわからなかった
今橋 愛(いまはし あい)
1976年大阪市生まれ。歌人。
2002年、「O脚の膝」100首で北溟短歌賞受賞。
著書に歌集「O脚の膝」。同人誌〔sai〕、snell、未来短歌会に所属。
ホームページhttp://www.aaaperson.jp/
















読みました。今橋愛氏の作品はひところレスを結構付けて居たので、もしかしたら2回目かも知れない。でもこの作品は多分初回です。結構長いと思って読んだのですが、矢張り最後に短歌が付いて居てなんだかほっとしましたが、詩はどうでしょう、何か独白の様な気がしました。