あなたが好きです
大好きです
橘上
背の低いあなたにリアトリスの花の名を与える
名をなくしても花は生き生きと衰えるから
それでもあなたは走らなかったから
あなたより少しだけ背の低いリアトリスは
あなたに名前を奪われて、重力をなくす
その浮力につられぬよう、根をのばして大地に根付く
リアトリスの種が知った風に
「年を取ることの美しさ」を語ると
あなたはその話に耳を傾け
「その方法は呼吸しない」
とは言わなかった
「ことばあそびにあそばれながら
朝日を一度も信じないこと」
―それが僕の祈りであることは
階段で寝泊まりするあなたに悟られてはならないことだった
僕らではない影たちを踏み潰し
影の悲鳴をつなげては
仮縫いの音符をつくる
あなたの踊りを見たような気がするのは
あなたは顔では笑わないから
「似たような言葉で違うようにうたうね」
信仰よりも言葉を選んだ僕に
交通ルールはやさしくなかった
赤信号で止まる暴走車に
やさしくひかれてみせる、あなたのからだのあざに
僕が選らばなかった言葉を全て書き込んで
その言葉ごとあなたを抱きしめたかった
それが僕の選択であると
僕は言葉を使わずに、誓うべきだった
言葉足らずにしゃべりすぎるあなたは
いつか沈黙を言い当てそうで恐ろしく
言葉尻をうたうように隠した
「これはワルツではない」
言葉にしないとわからない
言葉にすると、ことばがちがう
環境・経験・思考の違い
かつて誰かが済ましてしまった問題に
今更ながらに絡めとられる
僕ら二人は展開せず
問題は更新されない
問題を更新することばかりに熱中していた僕は
言葉探しに気をとられ
窓を開けることをしなかった
「いつも会話は振り出しに戻る
いつまでもサイコロを振れるわけもなく」
見たような気がして見ていなかったテレビ
聞いてないような気がして聞いていた音楽
会ったことのない人の思い出話
僕らは共有できなかったことでばかり
声を重ねていましたね
あなたをわかりえなかった
ということばの意味をわかりすぎて
僕はことばがわからなくなります
重ならない言葉のなかでうごかない意味
その無意味を問い詰めるのは
いつだってあなたでした
結論を変えることのないあなたに
自己完結を見せつけたかったのは
あなたの前で僕は論理でしかなかったから
それでも呼吸は理由の理由をほしがるから
僕の音楽はあなたの音楽ではない
あなたの思考は僕の思考ではない
言葉をつむぐことのうしろめたささえ
分ちあうことができなかった
否、
書くことのげんざいをあなたにすら、渡したくなかった
僕は本を読まない
わからないことを調べない
わからないことを否定しない
あなたが読んできた本の中に
僕が読んできた数少ない本は入っていませんでした
僕たちは話をするのに、知り過ぎていた
もっと知らない話をするべきだった
例えば、豚の讃美歌のハーモニーについて
例えば、溺死する猿がつかんだわらの手触りについて
知りえもしない話を知る由もない顔で
続けようもなく、終わりようもなく
お話しにならないほどに話すべきだった
背の低いあなたに
あなたより一回り小さいうたのたねをおくる
これからうたになろうとする
薄紅色のうたのたねは
あなたにうたわれるたび、すくすくのびる
あなたの白い背中から
あなたの赤い鼓動から
水々しい音符を吸って
うたはねをはり、はつがする
うたのめが、あなたの背を越して
あなたのうたになるころに
僕は書き出す
書くことでしか欠くことのできないものへ
祈りの顔色をうかがって
僕の歴史にあてはまらない
あなたの言葉に目配せしながら
口笛を吹くことを拒絶した僕を
口笛を吹くことで拒絶したあなたは
誰にも寝顔を見せないで
僕の生きなかった言葉を生きる
雨の日も晴れの日も
あなたは黒いかさで歩く
雨も光もはねつけて
雨はいらない
光はいらない
正しさはいらない
間違いはいらない
否定はしない
肯定はしない
あなたが好きです
大好きです









(14 投票, 平均値/最大値: 4.79 / 5)





