強い者は消え
弱い二人だけが残った。
私もあなたも晩年だった。
残されたのは視力だけで
それでも世界の内側にいた。
色が死ぬ午後
華やいだ夢ばかり見る。
目を覚ましては
狐の嫁入りの下で泣く。
虹が出るくらいなら
死を選ぶとあなたは言った。
私は体から色を払い落とし
それでも空は
絶望的に遠く
あなたは帰り支度を始めている。
それはもう
そういうことになるんだと。
鳴り響くサイレンも
巨大な氷となった西の空も
あなたの首筋に彫り込まれた
無数のアクセサリーも
私たちが人間である条件を
ひとつも満たすことはできなかった。
左手で掲げた私たちの傘は
心臓の匂いがぷんとして
黒い部分が
私にだって知れたところ
赤い部分は
今もあなたに
掴まれているところ。
その指先は私の痛みを探って過去に遡り
大きく平らな底の水にまで到達した。
生命を育まないその水こそが
私たちが人間である証拠だった。
記憶を失う瞬間が一番つらい。
ならば知っていることを
全部吐き出せ
私のうちにいる人よ。
美しい顔はみんな消えた。
肉を引き裂こう
生まれいずる悩みとして。
そしてどうかそれを
私の祈りと解釈して欲しい。
堕落した花火が今年も美しい。
私はマンホールの下から
悲しい気分でそれを眺めている。
結局私たちを許すものなど
何もなくて
私の死についてあなたは
何か言ってくれるだろうか。
私は悪夢の最中
肥大した言葉に肩を押され
大きな無意味をまっとうしている。
あなたはそこでもまた辛抱強く
今夜も眠らないつもりだ。
(初出 repure8)
泣く夢
小川三郎
小川 三郎(おがわ さぶろう)
神奈川県生まれ。
2002年から2005年までの間、現代詩手帖投稿欄に詩を投稿。
以後、第一詩集『永遠へと続く午後の直中』、第二詩集『流砂による終身刑』を思潮社より刊行。
『ルピュール』同人、『酒乱』同人・編集委員。









(5 投票, 平均値/最大値: 4.80 / 5)





