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夏の町

今唯ケンタロウ


ここは、夏の町だ。
だけど、
暑さなら欠け落ちてしまった――


         *


耳をすませば、路地の其処ここに、
声や音の滓みたいなものが残留しているし、
よく目をこらしてみれば、
うっすらと行き交う影さえみえてくる。

でもすぐに……誰もいなくなる。
……

白い家の並び、まぶしく、
空はまっ青。
太陽がいなくなった所に、
ほつりと黒い、丸い穴。


 (あれが”出口”だとしても……
  行けるはずがなかった。 )


呼び鈴はどこも壊れている。
窓硝子はいつ迄も閉ざされ、
内部をもう映し出すことはないし、
主のいない犬小屋なんかに、
わずかな闇がとどこおっているばかり。


名前のない町
暑さから忘れられてしまった


……


空の青さ……高さ……
雲がないのは、
流れがないからだ。


川。
たどり着くことのない海へつづいている川……

うち捨てられたごみだとか、油もない。
ここはすでに浄化された世界……。


         *


はてしない住宅地をさまよい果てに、
一件分の更地があり、
そこにだけ花が咲いていた。
白く小さな、名前のない花。
幻なら……せめて風にゆれていてほしい、
……


         *


花は、
たしかに僕の手に触れた。


これじゃあまりに用意されすぎた、
墓場のようで、
けれど。
ここにもう寝っころぼうか。


 カレンダーをめくる手とか
 テーブルのうえの卵とか サラダとか
 垣根のしたの仔猫 小路 どぶがわ
 どこにもつづいていないと信じたかった
 公園の階段とか――


  (まどろみのなか、
   そんなものがちらついてはきえて。
   ……目覚めれば、また、きっと、
   汗がつたい、人が行き交い、僕はいつもの街をあるいていくのかもしれない。
   今は、すべてから切り離されたこの夏の町の片隅で、
   ただ、一本の白い花として、ここに在りたい。…… )


         *


だれの返事も返ってこない
太陽が去った青空の下の、夏の町

汗がつたわない、この夏の町



今唯 ケンタロウ(いまゆい けんたろう)

ユリイカの新人(辻井喬・選)
メリーゴーランド童話塾出身・11期生


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