六本木詩人会 六本木詩人会 ホテルアイビス六本木

ぼくはそのとき 詩だけ書いてた

今唯ケンタロウ


瓦礫から伸びるちいさな
白い花
そこに眠る物語のこととか――

ぼくはそのとき
世界とはなれた灯りの下で 詩だけ書いてた
…… ……
まっくら闇のなかを沢山の人たちが来て
〝 お家へ帰る道がひびわれて、おちてきたんだ…… 〟
女の子がつぶやくように、そのままもう行ってしまった。
〝 皆でおおきなバスにのってきたの。バスはすごくゆれて…… 〟
だれかのいたみ
くるしみ
のどのかわきを
しることもできないまま
世界とはなれた灯りの下で 詩だけ書いてた
別の世界の物語
そこに咲く花畑の下の瓦礫の町

瓦礫から伸びる いっぽんのちいさな
白い花が
あの子のちいさな手だったかもしれない。

ぼくはやがて 家へ帰る道を踏み 玄関の明かりの向こうにたどりつき
だれかがもうつくことのできないテーブルとか
お風呂とか
あたたかいねどこで
こんなに隣合っていてさえ
だれかのいたみ
くるしみ
のどのかわきを
とおい世界の物語としてしかみれなくても
ことばは何かを含み
伝えていけるものがあるなら――と、うそぶきながら
また 世界とはなれた灯りの下で…… ……
いつものまっくらがりには 今はだれの姿もなかった。
きみたちがおちてきた闇をたどれば
そこはいつか 未来の自分がいる場所かもしれない。
そこでしかわかることのできない
いたみ
くるしみ
のどのかわきを――
ぼくは世界とはなれた灯りの下で 詩だけ書いてた
詩だけ書いてた
詩だけ書いてた
……
詩だけ



初出:「市民文芸 鈴鹿2009」



今唯 ケンタロウ(いまゆい けんたろう)

ユリイカの新人(辻井喬・選)
メリーゴーランド童話塾出身・11期生


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