初めにオーロラを観た。
闇の海にうごめく光の海
どちらが産みの海なのか
揺らめく光の鐘が鳴り渡り
たゆたう闇の森に谺する。
未来からの祝福か
過去からの警告か
解読できない光の言葉
聞き分けられない闇の声。
それでももう少しで掴めそうなオーロラ
その端に指先が触れ薄い爪が紅く点る。
光の旗と闇の絵巻は混ざり合い
七色に変幻する馬と漆黒の馬が
寄り添うように駈けてゆく。
オーロラは闇と共に過ぎ去り
残された光の雫
―それは鍵穴だった。
その扉を開ける度
次の鍵穴が現れた。
第一の鍵穴にきらめく大きな水槽
白いクジラが甘やかな潮を噴く。
日溜りの小島に人影はなく
潮騒に連れハンモックが揺れている。
第二の鍵穴に展開する無重力のサーカス
宇宙服を着た熊と裸の宇宙人が戯れ
飛ぶ三輪車を補助輪の跳ねた自転車が追う。
大男の背中が山の影を投げ掛ける。
第三の鍵穴にざわめく昼下がりの実験室
ビーカーの湯に落ちた白墨が泡立ち
赤青のリトマス試験紙に紫色の血が滲む。
宿題は忘れられたまま。
第四の鍵穴に香る湿った草地
ブランコを吊るチェーンが小刻みに震え
脱ぎ捨てられたハイヒールに
蝶が燐粉を落とす。
第五の鍵穴に歪む他人の顔ばかり映す鏡
氷の広間で仮装舞踏会が延々と続く。
剣や銃が擦れ合って鳴るが
玩具か本物か見分けはつかない。
第六の鍵穴に咲くテーブルの花園
皿毎に咲く食べられる花の周りで
小鳥達が喧嘩口調でさえずる。
カーテンの隙間で猫が涎を飲む。
第七の鍵穴に点る何十本もの蝋燭
差出人の名の薄れた封筒に蝋が垂れ
粘つく砂に埋もれた砂時計の割れ目から
黄金虫が歩み出た。
オーロラから鍵穴まで
竹浪明
竹浪 明 (たけなみ あきら)
http://takenamiakira.jp
映像作家・文筆家・東京造形大学映画専攻非常勤講師。
「蘭賞」(俳句)、「平間至写真賞優秀賞」「文芸社ビジュアルアート社長賞」他受賞。
俳句×写真集『恐竜×ヴィーナス=17文字』(文芸社)、 写真集『象と大樹と子供たち』(角川学芸出版・収録写真によるTシャツが「赤十字グッズ」に)他。
監督映画『のら暦*ねこ休みネコ遊ビ*』(UPLINK)他。















