六本木詩人会 六本木詩人会 ホテルアイビス六本木

独居房における断片集

小川三郎


  身体

目を瞑って
壁に貼り付く。
ゆっくりと
時間をかけて
白くなる。





  頭

頭の中に
何十本も手が生えて
その手がそれぞれ一本ずつ
糸の先をつまんでいて
いたずらっぽく引っ張ったり
揺らしたり
そのたび私の瞳が揺れる。
見えるとか見えないとか
そういうことじゃなくて。
私はどことなく宙に浮いている。
醜い目玉をあてがわれているが
これだけちゃんと
反応している。
責めるよりはまず褒めてくれ。
私も歴史の一部であろうに。





  音

部屋の真ん中に生えた枯れ木に
抱きついて
目を閉じ
枯れ木の音に
耳を澄ますと
「それはとても古い詩だよ。
あまりに古すぎて
川になってしまったんだ」
形ある死はいつか亡びる。
そこにはかすかに四季が匂った。
ぼくの笑顔は一種類で
それは意外にも
植物に似ている。





  ことば

あらゆる場所でひとは死に
あらゆる殺人現場は不可思議だった。
ここは私が殺人し
殺人された場所
誰にとっても有利にならない
私の後姿だけがある場所。
私は自分だけでものを考えることはない。
この文章だって
ふたりで相談して書いたものだ。
だから私はいつも独りで
死ぬほど苦しまなくてはならない。





  虚

めくるめく東京
めくるめく戦争
誰かがそれを写真に撮った。
私はテレビで
天気予報を観ている。





  過去

なにもないんですねえ
あなたの部屋には。
ええ、夕暮れしかありません。
夕暮れになれば
美しかった桜も
なくなってしまう。
遠くから流れてくる音楽は
タイトルが思い出せませんから
なくなってしまう。
誰の記憶だか知りませんが
そんなものが
床のあちこちに転がっていて
拾い上げて目を凝らしても
それは私の記憶ではなく
だから
なくなってしまう。
私の部屋には
なんにもないのです。





  首

潰えたものは空ではなく
ほら、あんなにたくさんの飛行機が飛んでいる。
ぼくは犬のようにたくさんのひらめきを持ち
涎をたらしながら
明るい平和を祈っているのだ。
絶滅したものだけが永遠になれる=森。
首がふたつ欲しい。
狼みたいな首が欲しい。
ぼくが例え宇宙人だったとしても
君はそんなに変わらない。

  *




小川 三郎(おがわ さぶろう)
2002年から2005年までの間、現代詩手帖投稿欄に詩を投稿。
以後、第一詩集『永遠へと続く午後の直中』(2005年)、
第二詩集『流砂による終身刑』(2008年)
第三詩集『コールドスリープ』(2010年)を思潮社より刊行。
詩誌『ルピュール』同人

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