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皆既日蝕屋久島便り~マイケル・ジャクソン&ピナ・バウシュ追悼と共に~

竹浪明


 華麗なムーンウォークでも一世を風靡し、月に感応して変身する狼男も演じたマイケル・ジャクソンさんが先月2009年6月25日に51歳目前で急逝し、その5日後の6月30日、昨春「フルムーン」を日本で公演したピナ・バウシュさんが69歳目前で亡くなりました。スタイルは異なりますが、ふたり共すばらしいダンサーでもありました。
 昨年、身体表現批評誌「Corpus no.5ピナ・バウシュ特集」に、ご依頼いただき、「記憶の重力と夢の重力―ピナ・バウシュの二つの公演より―」というタイトルの文章を寄せています。以下抜粋です。

「衛星NHK『黒澤明特集』~『羅生門』の番宣で、阿木燿子さんが、『作詞家は肉声を欲し、黒澤さんは三船さんの肉体を欲したのでは』と語っていた。イメージが具現化されることへの希求、ぎらぎらした太陽をそのまま映すような肌への欲求…。
 では肉声や肉体は何を欲するだろう?表現者の肉声・肉体は。阿木さんの論を引っくり返せば、それはテキストでありイメージであろう。言い換えれば、作品という名の『場』、現実の重力から解き放ってくれる、別の重力が作用する場。

 そうした場と身体の幸福な結婚の例として、ピナ・バウシュが作り出す舞台を挙げたい。そして今回、彼女の演出・振付け、ヴッパタール舞踊団二00八年三月東京公演『パレルモ・パレルモ』と『フルムーン』では、その結婚の対称的な形態を見た。
 前者のクライマックスは、開幕まもなく訪れる。二つのサプライズ、『静』と『動』のそれがほぼ連続して起こる。幕が開くと、もうひとつの、そして堅牢な幕が舞台の視界を阻む。正体は積み上げられたブロックで、その視覚的驚異(脅威)は、ほどなく聴覚的驚愕を伴い、劇場を文字通り揺るがす大音響と共に、ブロックの壁は奥へと倒壊する。  …中略…

 倒壊した壁の向こうに、広がる景色はない。砕けた壁のみが景色であり、『倒れた背景』の上で、ひとりひとりが、群像が、蠢く。
 初演が一九八九年だったためベルリンの壁がモデルと思われ、否定されているが、特定の壁でないとすれば、逆にそれは見る者の中でベルリンの壁でもあり得るし、今日ではニューヨークの9.11でビルが崩壊した音響も想起し得る。

 このように『パレルモ・パレルモ』が地上の出来事という『記憶の重力』に引き寄せられれば、『フルムーン』は月の軽い重力、『夢の重力』を感じさせた。
日本公演でお馴染みの、たどたどしい日本語も、言葉そのものが質量を失い、異なる重力の中を漂うかのようだ。日本人ダンサーの滑らかな普通の発語が、むしろ違和感を覚えさせ、前者の浮遊感をさらに際立たせる。  …中略…

『フルムーン』で舞うダンサー達は、カエルさながらに下手から上手へ流れる水を泳ぎ、月の岩の下をも潜り、また岩からジャンプした。月にはカエルがいるという伝承もあり、両者は共に変態し、復活・再生のシンボルでもある。ピナがカエルを意識したとは言わないが、復活・再生の場で、人も水も軽々と舞っていた。」

 もうピナが司る、身体と場の幸せな結婚を生の舞台で観ることはできません。マイケルの新しい歌を聴くことも?
 7月8日から予定されていたマイケル・ジャクソン・ロンドン公演「This Is It」のリハーサル映像が、映画化の企画と共に話題を呼んでいますが、その迫真のステップと熱唱は胸に迫ります。あるいは新しい歌の映像も秘蔵されているかも知れません。

 今週、7月22日の皆既日蝕を体験するため屋久島を訪れました。真昼の満月が太陽と重なる現象を。
 20日・月曜に上陸した屋久島は快晴で、砂地と魚が透ける宮之浦川の清流で泳ぎました。
 21日・火曜は俄か雨も降ったものの概ねよい天気で、隆々とした幹の弥生杉を見上げ、可憐な仔鹿と対面し、千尋(せんぴろ)の滝、大川(おおこ)の滝に涼みました。

 屋久島は宮崎駿監督の「もののけ姫」の背景となっていますが、「千と千尋の神隠し」の主人公・千尋の名前に、屋久島のこの滝の名も影響しているかも知れません。千尋(せんぴろ)の橋もあり、橋を渡った千尋(ちひろ)が、やがて千(せん)となることに、神々の潜む島の気配も感じます。

 22日・水曜は朝から曇りで雨も降ったり止んだりの中、益救(やく)神社の境内でその時を待ちました。雲間に部分日蝕を垣間見ることはできましたが、皆既日蝕は雲の奥でした。ただその約5分間、異様な冷気と信じ難い闇に包まれ、蝉も鳥も鳴き止み、街灯が自動的に点り、“ 真夏の寒夜”“真昼の夜景”となりました。

 やがて暑さと明るさが戻り、蝉と鳥が再び鳴き始めました。太陽も月も、復活を繰り返します。亡くなったものたちの魂も、きっとどこかで蘇っているのでしょう。
帰りの船で、海原を跳ぶイルカの群れに遭いました。2年前に『月のイルカ』という映画を作っていて、皆既日蝕を体験した日にイルカたちに手を振れたことも嬉しい体験です。
 「明」という名は中秋の名月に生まれて、つきましたが、「日」と「月」が重なったこの日、5年前に死んだ父や、様々なことも思い出されました。



竹浪 明 (たけなみ あきら)
http://takenamiakira.jp
映像作家・文筆家・東京造形大学映画専攻非常勤講師。
「蘭賞」(俳句)、「平間至写真賞優秀賞」「文芸社ビジュアルアート社長賞」他受賞。
俳句×写真集『恐竜×ヴィーナス=17文字』(文芸社)、 写真集『象と大樹と子供たち』(角川学芸出版・収録写真によるTシャツが「赤十字グッズ」に)他。
監督映画『のら暦*ねこ休みネコ遊ビ*』(UPLINK)他。

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