ここでは重力は地上の凡そ六分の一、心の石も軽くなる。
要らない石なら、思い切り抛れば遥か彼方へ飛んでゆく。
漂うような足取り
人類にとっては他愛もない散歩でも
人生にとってはかけがえのない一歩一歩。
今日はどこのどの蕾が開くだろう?
ポケットからのぞく赤い角
輪廻の順番を間違えた鬼の蛙が
クレーターの新しい池に音もなく飛び込んだ。
薄紅の蓮が揺れている。
角を生やした赤い蛙は幾度も引っくり返り
腹を上に下にし無邪気に笑う。
角は抜け落ち、手足も引っ込み尻尾が伸びて
赤いおたまじゃくしが薄紅の影に身を寄せた。
残された、もう幾本めの角を拾い、ポケットに。
クレーターの曼荼羅が広がる。
ひとつひとつが、かつて火の玉を受けた傷痕
底に溜まっているのは月の涙なのかも知れない。
色とりどりの蓮が花開き
光の束から分かれた糸蜻蛉たちが
極楽の地図を、透き通る刺繍に縫い上げてゆく。
光の刺繍が絡まって、もう歩けない。
開きかけの蓮の中に迷い込んだ蜻蛉を
紫の花びらを広げ開放した。
ここで積んだささやかな善行は、地上で報われるだろうか?
いや、それに善いことばかりな訳もない。
見渡せばいつか月の海は静まり返り
蓮の花も閉じている。
闇に沈んでゆく蕾
夢が眠り、ほどなく夢の夢が目覚める。
地平から青い蓮が浮かび出て
ここから眺める地球は何て澄んで美しい。
月に浮かぶ蓮
竹浪明
竹浪 明 (たけなみ あきら)
http://takenamiakira.jp
映像作家・文筆家・東京造形大学映画専攻非常勤講師。
「蘭賞」(俳句)、「平間至写真賞優秀賞」「文芸社ビジュアルアート社長賞」他受賞。
俳句×写真集『恐竜×ヴィーナス=17文字』(文芸社)、 写真集『象と大樹と子供たち』(角川学芸出版・収録写真によるTシャツが「赤十字グッズ」に)他。
監督映画『のら暦*ねこ休みネコ遊ビ*』(UPLINK)他。















