そして半身を空に滲ませて、……
あの樹の尖りまで
……日と夜の海流よ
瞑る眼の一色(ひといろ)のいまを、希うために
(膝にひらいた本はそんなにも、わずかな光とともに埋滅し)
あなたがもしも
最後の鳥影を追うのならば
アンタレスの、露けき軌道の射し入る
倉庫裏の西――
固有の名でふたたび呼ばれない、椅子の
背もたれに手を掛け
誰のものでもない名を呼ぶこと
交差路に棄てたダリアの、色褪せてゆく時刻をはかり
偽りもなく、夏という夏を
写しとること
剥き出しのダクトにそって償われた、筆跡が
細い歌唱をなぞるとき
薄闇に、蟻ほどの稲妻が読点すら打つだろう、……
嵌殺しの天窓までのはるかな八月、六月、とかぞえながら
見えるかぎりの宇宙は袖を吹き抜けよと
わたしは、信じたのだから
瞑る眼の一色のいまを、希うために
最新詩集『ステーション・エデン』(思潮社)より
カノン
杉本徹
杉本 徹(すぎもととおる)
1962年、名古屋市生まれ。慶応義塾大学文学部仏文科卒。
2003年、第1詩集『十字公園』(ふらんす堂)。
2009年、第2詩集『ステーション・エデン』(思潮社)で歴程新鋭賞。















