六本木詩人会 六本木詩人会 ホテルアイビス六本木

深夜に大型バスがもはや頭の中で激しく横転したままだ

和合亮一

おお やがての太陽に照らされるだろう 我らの道
もはや目隠しをしたままだ この時 頭の後ろで銀色の扇風機が
少しも輝かないままで 回っている 
                 だから 我ら ふたたび 

猿になるしかない 深夜に大型バスが頭の中で激しく横転しているから

この宇宙は静かな狂乱なのさ 釘が折れ曲がったまま曲がっている
沼の引用に失敗して 静かに薔薇の群がりを恐れるしかあるまい
再び 猿になるしかない 炭酸の雨と 街の反対側で墨汁の雨を受け
複雑な地図と血の高速道路と倒れ込む電信柱 
                     深夜に大型バスが
                     頭の中で激しく横転している

見つからない鍵は捨て去るしかない 人としての過去は
笑い飛ばすしかあるまい 猿になる時には必ず
山のように干し草を積んだ車が 納屋に入っていく

最早 どう仕様もない廃墟である 我ら肉体 猿になるしかあるまい

ここまでの時間が無残に風に晒されて 崩れかかった柱が冷たく
見知らぬ歴史の影に震えている 首輪のない犬がやって来て ただ吠えている
本当のことは何も明かされないまま 
                 開かれることのない窓がメキシコの寺院にはある

最早 どう仕様もない廃墟である 我ら肉体

何もない空間に手袋が落ちていて 手の中に百万都市が栄えている
君 何も考えるな 待たない夜明けは来ない 革命が猿になる
カーテンを開けてみたまえ 美しい殺戮が厳しい顔で
朝を包む時に俺は包まれるのだ 
               判明しない孤独に

見知らぬ人に訪ねる時には声を殺して聞く
「明けてくる空にはどのような疑問があるのか?」
何億もの群衆が歯をむき出してやっぱり怒っている
「夜明けには夜空の世迷い言の解決がある」

噴火口の周辺で雲が散り散りになって 
川の周辺に少しも輝かない手袋がたくさん墜ちていて
地殻に沈み続けるごま豆腐 
             雲の中から垂れ流される雲
奥処であふれ出す金の湖 
            涸れてゆく貧しい田園

意味の内側の血だらけの現在を最早 どう仕様もない

猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿
猿を

 見つめていると毛穴
 風に晒されている髪の森
 燃えさかる思念の猿
 原子を蹴飛ばす幼児の愛しさ
 転覆する鯉
 叫ぶ詩人の孫
 狂い泣き続ける合い鍵

照らされ続けられている猿の野の木
斜めにそそり立ち はかなげに朝の光を受けている
最上階の猿の巣で 少しも曲がらないバナナが置き去りに
その中味は決して甘くない それを狙っておびただしい猿がよじ登ってくる
鮫の皮を炭酸水が滴る
            猿だ 猿になるのだ なったのだ
いささか 直立のヒノキ
            の木
もしくはきみの陰茎

         深夜に大型バスが
  頭の中で激しく横転しているから

原始に戻る私たちはたくさんの廃墟なのだった
ピアノの連弾とのこぎりの音
奄美大島の陸橋で割り箸が折れると
ふたたび猿になるしかない

はるか遠くで燃えているかがり火をどうすればいいのか
乱打するピアノの上で
    乱打されるピアノ
を 
 どうしようもないまま

    柱から崩れていく廃墟
私たちの

指が追いかけてくる
いーっとした歯と
指紋が

飛行機が
三輪車が
小石が

    河が
海が
津波が
石が飛んでくる

猿と
  バナナが
沼を越える

猿の歯の裏側の青空を美しく洗っているとあらゆる河口の
反乱が起こってきているので 最早 革命しかないと 
何億ものタワシを燃やすのだ

          逆巻く激情を その回転のままにするしかないと
思っていると すっかりと
             日暮れとなり 

背中に薄い夕暮れが当たるから 生命
を誤解するのだ 見ず

           知らずの果実は転がしたままで又、
           生まれていくのだ
こうすれば

                   どこまでも悪ふざけが終わらない

       胸の氷河は混乱する
気狂いな靴底に 
       太陽が粘りついたまま

方位を踏みしだくと跳躍する

           四色の案山子!

 勃起したバナナは

果実に近づく 私は今日も
 ひとしきり果実に接近する
  金紙が燃えている 鳩が狂っている
   電線が切れている 水たまりが消えている
    それでも私は果物に手を伸ばす

     それでもあなたは果物の硬さを味わう
      冷ややかな表皮に右脳を寄せて
       涼しい風を舌先で転がす
        猿が射精している 桜の花びらが油に浮かんでいる
         草が伸び放題になっている 豊かな匂いの中の薄い霧

          果実の内部に一粒の落涙 
           輝かない海の砂の死
            焼けた背中に広がるアメリカ大陸
             ふすまを紫色に染め直す外科医
             コインの裏側を呪い続ける表側

              私たちはそれでも果実に近づく
               終わらない驟雨は深夜の真昼間に
                陽の当たらない小道を火だるまになって
                 すり減っていった

                  三十億年前の岩の陰に極端な散漫と悶絶
                   目を凝らし続けている地球の孫
                    木の最上部で光る辞書の肉親
                     手の中の迷路を握り合い
                      深い謎の中を暴き合う時に
                       きらめく猿の背骨

                        深夜に大型バスが頭の中で激しく横転しているので

                         深夜に大型バスが頭の中で激しく横転しているので
 
猿だ 猿になるのだ なったのだ


  



和合 亮一(わごう りょういち)
1968年生まれ。
第1詩集「AFTER」で第4回中原中也賞(1999年)、第4詩集「地球頭脳詩篇」で第47回晩翠賞を受賞(2006年)。
読売新聞・日経新聞(夕刊)・ディズニーファミリーサイト等に連載中。

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