肉のカントー、
骨のカントー、
いまにも疾駆する姿勢で、
あわれ、馬でもない牛でもない、
いやはての哺乳類の骸骨の、
その首から上が、
西北西へそこを出ようとしている、
あとはまっくらくらな空間を、
分子となってあふれかえる一瞬の記憶の俺たちだ、
あわれ、馬でもない牛でもない、
いやはての哺乳類の骸骨の、
その首から下が、
乱高下する株価グラフのぎざぎざのあたりに、
捨て置かれた遊水池のうえの稲妻のあたりに、
みえかくれしている、
カントーのカが、それを喰って、
その下で、レオナルド・ダ・ヴィンチの、
人体デッサンの、
手が、観音のように振られている、
あとはまっくらくらな空間を、
分子となってあふれかえる一瞬の記憶の俺たちだ、
骨のカントー、
肉のカントー、
あわれ、馬でもない牛でもない、
いやはての哺乳類の骸骨の、
その首から上が、
東南東からそこへ潜り込もうとしている、
ああ、首の反復だ、
反復だ、
(連作「デジャヴュその他の街道」のうち)
*初出──「鐘楼」12号、2009年2月
平滑ロード
野村喜和夫
野村 喜和夫(のむら きわお)
詩人。1951年埼玉県生まれ。早大文学部卒。
戦後世代を代表する詩人の一人として現代詩の先端を走りつづけるとともに、小説、批評、翻訳、朗読パフォーマンスなども手がける。
詩集『反復彷徨』『特性のない陽のもとに』(歴程新鋭賞)『現代詩文庫・野村喜和夫詩集』『風の配分』(高見順賞)『ニューインスピレーション』(現代詩花椿賞)『街の衣のいちまい下の虹は蛇だ』『スペクタクル』『言葉たちは芝居をつづけよ、つまり移動を、移動を』、評論『ランボー・横断する詩学』『散文センター』『21世紀ポエジー計画』『金子光晴を読もう』『現代詩作マニュアル』『オルフェウス的主題』、CD『UTUTU/独歩住居跡の方へ』など。









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